研究課題
基盤研究(C)
鶏肉はカンピロバクター食中毒の原因食品として重要視されており、食鳥肉処理工程において保菌鶏の腸内容物から高度に汚染を受けることが知られている。本研究では、鶏皮膚に対する本菌の付着メカニズムを細菌、食鳥および環境要因の各側面から明らかにし、効果的な微生物制御法の開発に応用することを目的としている。食鳥側の付着要因として、脱羽工程で開いた羽毛包の中に本菌が入り、冷却工程で菌が閉じた毛包内に封じ込められるという考えが提唱されているが、この仮説を支持する詳細な再現試験は行われていない。そこで脱羽直後のと体を用いて、背側頸部、腹部、大腿部、背部、股の羽毛包のと体を氷水に90分間浸漬し、冷却前後の同一部位の羽毛包の写真を撮影し、その面積を比較した。その結果、冷却処理によって羽毛包が縮小する割合は極めて低く、と体の冷却によって菌が毛包内に封じ込められる可能性は低いことが示唆された。さらに、鶏皮膚の角質層をアルカリ処理した抽出液中にカンピロバクターと結合する物質が含まれているか、オーバーレイアッセイにより確認したところ、分子量の異なる複数の付着因子が検出され、食鳥と体皮膚の抽出物中に本菌と結合する物質の存在を確認した。次に、細菌側の付着因子を明らかにする目的で、遺伝子改変技術を用いて鞭毛欠損株(flaA-B-、flbA-)、莢膜欠損株(kpsM-)リン脂質欠損株(pldA-)及びPEB1外膜蛋白質欠損株(peb1-)を作出し、鶏皮膚に対する付着試験を実施した。その結果、莢膜欠損株の付着菌数は野生株と比較して有意に低く、莢膜が鶏皮膚への付着因子として重要な役割を担っていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、カンピロバクターの食鳥と体皮膚への付着能を評価するためのアッセイ系として、平板希釈法またはMPN法(3本法)により定量的に測定する方法を確立した。この測定系を用いて、細菌側の付着因子の検索を行った。C. jejuni81-176株の全ゲノム情報はすでに開示されているため、腸管粘膜に対する付着因子として報告されている遺伝子に着目し、これらのノックアウトミュータントを作製した。ミュータント作製のターゲットとする遺伝子は、flaA、motA、kpsM、peb1、cadF、pldAであるが、cadFをのぞいたミュータントの作成は完了している。そして得られたミュータントを用いた鶏皮に対する付着試験を実施し、莢膜が鶏皮膚への付着因子として重要な役割を担っている結果を得ている。次に、食鳥側の付着因子の検索も実施した。皮膚のアルカリ抽出物中にカンピロバクターと結合する分子量の異なる複数の付着因子が検出され、食鳥と体皮膚の抽出物中に本菌と結合する物質の存在を確認した。さらに、食鳥と体の羽毛包の開閉と本菌の汚染率との関連について明らかにするため、羽毛包の冷却前後の形態変化を観察すると共に、と体の異なる部位の皮膚に付着しているカンピロバクターの菌数を測定した。その結果、と体の冷却によって菌が毛包内に封じ込められる可能性は低いことが示唆された。以上の進捗状況から判断して、平成24年度の研究はほぼ計画通り達成していると考えられる。
前年度に引き続き、鶏皮膚に対する本菌の付着メカニズムを細菌、食鳥および環境要因の各側面から明らかにし、効果的な微生物制御法の開発に応用するデータの蓄積を目指す。具体的には、前年度に検出された食鳥と体皮膚のアルカリ抽出液にカンピロバクターと結合する物質を二次元電気泳動と質量分析装置を用いて同定する。さらに、皮膚の酸処理により付着能が変化するか検討する。細菌側の付着因子を検索する目的で、付着関連遺伝子のノックアウトミュータントを作製して皮膚に対する付着能を評価してきたが、cadF遺伝子については変異株が得られておらず、今後も継続してミュータントの作製を試み、得られたミュータントを用いた付着試験を実施する予定である。
平成25年度の本研究に計上しているのは、ブロイラーおよび地鶏のと体の購入と輸送にかかる経費、微生物検査や分子生物学的実験に必要な試薬類およびプラスチック器具類に加え、成果発表旅費、論文作成(英文校閲としての謝金を含む)に必要な経費に留めている。
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