昨年までの研究で、識別用配列を含むトランスポゾン変異株ライブラリーの中からC57BL/6 MyD88欠損マウス感染モデルにおいて感染能の低下した変異株が選択された。それらの中に鞭毛生合成、糖鎖修飾、莢膜生合成に関連する遺伝子にトランスポゾンの挿入が見られた株が見られ、その中でも鞭毛関連の遺伝子変異株は多数あった。C. jejuniは細胞侵入性を有する事が知られており、細胞侵入性は病原性に関連すると報告されている。今回のスクリーニングで選択された鞭毛変異株はin vitroの細胞侵入試験において細胞侵入性の著しい低下が生じていた。一方、鞭毛運動による走化性において重要な役割を担っているcheY変異株は逆に細胞侵入性が高まった。鞭毛とその運動性のマウス感染における役割を調べるためにCheY変異株をMyD88欠損マウスの腹腔内に投与したところ、4日後の肝臓では野生株同様に菌が検出されたが、糞便中の菌は野生株の1/100以下であった。一方、cheY変異株を経口投与したところ4日後の糞便中に菌は検出されなかったが、野生株は1000cfu/g糞便の菌が検出された。従って、走化性自体は臓器への移行や定着にはそれほど重要ではないが、腸管における定着には重要であると考えられた。一方、鞭毛を欠損したflgR変異株は、細胞侵入性において著しい能力の低下が生じるが、腹腔投与後の血流中への出現は野生株以上の菌数が見られた。同様にN結合型糖鎖修飾に関与する遺伝子(pglB)の変異もまた、細胞侵入性の低下につながるが、腹腔投与後は野生株以上に血液中に菌が検出されたことから、鞭毛による運動性や細胞侵入性はこのモデルにおける血流を介した臓器移行に関与していないことが明らかとなった。しかし、pglB変異株は感染4日目には肝臓や糞便中に菌は検出されず、生体内における生存に関与しているものと考えられた。
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