研究課題/領域番号 |
24580453
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒井 健夫 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50147667)
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研究分担者 |
伊藤 琢也 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20307820)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 狂犬病 / ブラジル / コウモリ / ウイルス弱毒株 / 分子疫学 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
ブラジル北東部は、コウモリを含む各種の野生動物やウシなどの家畜において狂犬病が多発し、最も狂犬病ウイルス(RABV)の遺伝子学的多様性が大きい地域であると考えられる。したがって、同地域においてコウモリなどの野生動物やその媒介によって狂犬病を伝播される家畜から分離されるRABVの分子性状を解析することは、野外における弱毒化ウイルスの探索にとって有益である。しかし、同地域でのRABVの継続的な疫学調査はなく疫学情報は乏しい。そこで、近年、同地域でコウモリを含む野生動物や家畜から分離されたRABVの分子疫学的解析を行った。その結果、同地域におけるRABVの疫学的特徴として、食虫コウモリ由来系統には既知のものとは異なる新たな系統が存在すること、キツネおよび吸血コウモリ由来系統は調査期間を通じて大きな系統の変化が起きていないことが明らかにされた。さらに同地域における吸血コウモリ由来RABVが1系統であったため、山脈等の地理的要因によって、他の地域のRABV系統を保有した吸血コウモリ集団とは隔絶されている可能性が示唆された。 現在、野生のサルにおける狂犬病の分子系統樹解析は、ブラジル北東部のコモンマーモセットの報告に限られており、野生のサルでRABVの感染環がどのように維持されているのかは不明である。今回、ブラジルに広く分布している1頭のフサオマキザルからRABVが分離されたので、その塩基配列を決定した。分子系統樹解析においてフサオマキザル分離株は、コウモリ由来RABVに分類されたが、既知のコウモリやコモンマーモセットから分離されたRABVとは異なる新たな系統を形成した。 以上、これらの遺伝子情報から、近年ヒトが感染・発症後に回復する報告例並びにコウモリ間の感染様式を明らかにする目的として動物やヒトに対して毒力の弱い弱毒ウイルス株を探索し、分子疫学的立場から解明する糸口が確保された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果として公表論文1報および現在投稿中の論文1報がある。これらはいずれもブラジルの野生動物から分離された狂犬病ウイルス(RABV)の分子疫学的解析から得られた成果であり、特にフサオマキザルから分離されたウイルスの性状解析はファーストレポートであり世界的にも大変珍しい。このRABVはコウモリ由来であることが本研究成果によって明らかになり、宿主を超えたこのRABVが野生のサル集団において維持されているか否かについて明らかにすることは、本研究課題である自然界に存在することが推測される弱毒化ウイルスの探索につながることが確信される。特にヒトが狂犬病に罹患した場合、その致死率はほぼ100%であるが、アメリカ大陸においての狂犬病の回復例や不全感染症例の報告は、食虫コウモリや吸血コウモリ由来ウイルスの曝露が原因と推測している我々の考え方を支持する貴重な研究成果と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者らが得た多数の野外RABVのRNAサンプルを整理して、病原性あるいは抗原性に関わる遺伝子領域の比較研究を継続して行い、既知の病原性関連遺伝子の特定領域または配列について、コウモリ由来株とその変異株、さらに食肉目由来株を比較し、コウモリ由来株に特有な変異領域や配列を見いだす。特に野外において狂犬病ウイルスの抗体陽性であるが発症していない動物集団の報告があるコウモリやサルにおける分離株の分析に取り組む。また上記のウイルスが分離された周辺地域における狂犬病ウイルスのサンプル収集を積極的に行い、分子疫学調査を進める。 ゲノム解析によって弱毒候補ウイルス株が見つかった場合は、既存の固定株ウイルスおよび野外強毒株を対照検体として、サンパウロ州立大学のCalvalho AB教授の協力を得て、マウス等の感染実験によって当該ウイルス株の病原性を実証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
サルの分離株をはじめ、申請者らがこれまでに収集・保管しているRABVの中から候補となるサンプルの全遺伝子配列を解析して、病原性状の推定、また分子疫学的検討を行う。これにはRABVのRNAを抽出し,特定の遺伝子配列を増幅した後に申請者らが所属する施設において所有するシーケンサーを利用するため,それらにかかる試薬類および器具類として消耗品費を80万円程度使用する。 同時にブラジルの野生動物狂犬病流行地域での遺伝子サンプルおよび疫学情報の収集を行う。これは現地共同研究者が担当するので,そのサンプリングに必要な消耗品費として20万円,旅費として30万円および輸送費として10万円程度を使用する。 特に感染実験において野外弱毒株が確認された場合は、既存の強毒株および食肉目由来株との分子系統関係を明らかにすると同時に、変異領域が新規の場合は、宿主動物の生体分子との相互作用について検討する。これらについては上記の遺伝子解析手法を用いて対応するが,10万円程度の消耗品費を使用する。
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