研究課題/領域番号 |
24580453
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒井 健夫 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50147667)
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研究分担者 |
伊藤 琢也 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20307820)
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キーワード | 狂犬病 / ブラジル / コウモリ / サル / ウイルス弱毒株 / 分子疫学 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
2010年にブラジル中央部のMato Grosso州で、狂犬病を発症したフサオマキザル(Cebus apella)から狂犬病ウイルス(RABV)が分離された。そこで、コウモリ由来RABVのヒトおよび家畜への伝達性および分布域を解明する一環として、本株(BRmk1358株)の分子疫学的解析を行った。南米において、サルはヒトへの狂犬病媒介動物として注目されつつあるが、サルの間で狂犬病ウイルス(RABV)の感染環がどのように維持されているかは不明である。 BRmk1358株のゲノムのN,P,M,Gおよびnon-coding G-L遺伝子領域の塩基配列を決定し、分子系統解析を行ったところ、本株は翼手目由来RABVのクラスターに大別されたが、既存のコウモリ由来RABV系統やブラジル北東部のコモンマーモセットから分離されているRABV系統とは異なり、独立した系統を形成した。すなわち、フサオマキザルとコウモリの間にはRABVの感染環が存在することが示唆されたが、感染源となるコウモリの種類は特定できなかった。また本研究によって,フサオマキザルと既知の報告があるコモンマーモセットは異なるRABV感染環を維持していることが明らかになった。野生フサオマキザルの一集団を対象としたRABVの血清疫学調査において、抗体を保有する個体が報告されていることから、本株を含めたサル分離株およびコウモリ由来分離株の継続的な分子疫学調査が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究におけるこれまでの研究成果は、公表論文3報および投稿中の論文1報および投稿準備中の論文1報がある。 これらはいずれも、コウモリをはじめとするブラジルの野生動物から分離された狂犬病ウイルス(RABV)の分子疫学的解析から得られた成果であった。本研究課題は、コウモリ由来RABVがヒトや家畜に対してどのような病原性を有するか否か、またその分子性状を解明することが重要であるが、今年度、世界的に極めて稀なフサオマキザルからのRABV分離株が、コウモリ由来であることを分子疫学的に明らかにした意義は大きい。フサオマキザルの血清疫学調査から、野外においてRABV抗体を保有する健康個体が見いだされていることはRABV弱毒株の存在を示唆するので、同地域におけるRABVの継続的な分子疫学調査が強く望まれる。平成24年度および平成25年度の調査によって、同地域を含めブラジル各地で250検体以上のRABV遺伝子サンプルが確保されており、一部コウモリ由来RABVが含まれるので、これらの分子疫学的解析を遂行する。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者らが得た多数の野外RABVサンプルを整理して、病原性あるいは抗原性に関与する遺伝子領域の比較研究を継続して行い、既知の病原性関連遺伝子の特定領域または特定配列について、コウモリ由来分離株とその変異株、さらに食肉目由来株を比較し、コウモリ由来株に特有な変異領域や配列を見いだす。 特に野外でRABVの抗体陽性であるが、発症していない動物集団の報告があるコウモリやサルにおける分離株の分析に取り組む。申請者らは以前の予備的実験結果として、食虫コウモリから分離された数株のRABVが病原性に関与するアミノ酸残基に変異を有することを確認している(Virus Gene, 2009)。従って上記のRABVが分離された周辺地域におけるサンプリングを積極的に行い、分子疫学調査および分離株の病原性解析を進展させる。 ゲノム解析によって、弱毒候補ウイルス株が確認された場合は、既存の固定毒株RABVおよび野外強毒株RABVを対照検体として、サンパウロ州立大学のCalvalho AB教授およびサンパウロ大学のBrandao PE教授の協力を得て、マウス等の感染実験によって当該ウイルス株の病原性を実証することになっている。
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