研究課題
リンパ腫は犬において最も発生頻度の高い悪性腫瘍の一つであり,臨床上大きな問題となっているが,その発生分子機構に関してはほとんど明らかになっていない。本研究では犬のリンパ腫発生にゲノムの不安定性とエピジェネティック修飾が関連しているとの仮説の下,それぞれ研究を行った。まず,5種の犬リンパ腫培養細胞株について,M期染色体標本の蛍光染色により染色体不安定性の解析をおこなった。その結果,すべての細胞株において不安定性を伴う染色体異数性が認められ,染色体不安定性の存在が明らかとなった。また,テロメアに関する解析では,5種すべてにおいてテロメラーゼ活性が認められ,FISH法による平均テロメア長の解析では,4種で健常犬PBMCと比較して短く,1種で長い結果となった。本研究で得られた知見は,将来的に犬リンパ腫における染色体不安定性の解析をおこなう上で有益な基礎情報を提供するものと考えられた。次に抗癌剤耐性に関与しているDNA修復酵素MGMTの解析を行った。その結果,メチル化阻害薬を添加したリンパ腫細胞株の一部でMGMT遺伝子mRNA発現量が増加し,犬リンパ腫でもメチル化によるMGMT遺伝子発現抑制が生じていることが明らかとなった。また,興味深いことに犬リンパ腫培養細胞株の中にはMGMT遺伝子が発現している細胞株とMGMT遺伝子を発現していない細胞株があることが明らかとなり,前者では抗癌剤耐性に関連している可能性,後者では化学物質をはじめとする各種DNA傷害物質によるDNA損傷に対する防御能を失っている可能性が示され,これが変異の蓄積による腫瘍の発生に関与している可能性も示唆された。本研究の目的の本質は犬リンパ腫発生の分子機構を明らかにすることで,新たな治療戦略を提案することであり,本研究成果はその端緒として有益な情報を提供するものと考えられる。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Canadian Journal of Veterinary Research
巻: 79 ページ: 印刷中