研究課題/領域番号 |
24580463
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
堀 泰智 北里大学, 獣医学部, 講師 (20406896)
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キーワード | 循環器 / 線維化 / アルドステロン / ミネラルコルチコイド受容体 / エプレレノン / 交感神経 / β受容体 / コラーゲン |
研究概要 |
交感神経受容体やアルドステロン受容体の活性化は心筋線維化を誘導することが知られている。また、近年では交感神経刺激は腎臓や副腎を介して全身的にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系を調節している可能性が示唆されており、両者の相互調節は心筋線維化の進展における重要な因子と考えられている。しかし、心臓局所における交感神経受容体刺激を介したRAA系の調節機序は未だ未解明である。本研究ではアルドステロンの制御を通した心不全治療の発展を目的とし、①ラット心線維芽細胞における交感神経受容体刺激を介した直接的なアルドステロン産生機序の解明、②アルドステロン受容体阻害を介した心筋線維化の抑制機序の解析を行う。 平成25年度には交感神経受容体刺激を介した心筋線維化におけるアルドステロン受容体の役割を解析するためにin vivo研究を行った。研究にはウィスターラット(4週齢、雄)を使用した。交感神経受容体作動薬(イソプロテレノール)を投与したラットでは左心室の心筋線維化が亢進しており、I型コラーゲンmRNAおよび蛋白の発現が増加していた。これらの反応はアルドステロン受容体阻害薬(エプレレノン)の併用によって抑制された。さらに、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK1/2)は細胞内シグナルの一つであり、I型コラーゲン産生の調節因子であることから、ERK1/2のリン酸化を解析した。交感神経受容体作動薬を投与したラット左心室ではERK1/2がリン酸化されており、エプレレノンはERK1/2のリン酸化を抑制していた。一方、いずれの群においてもアルドステロン合成酵素(CYP11-B2) mRNAの発現は認められなかった。 以上のことより、ラット左心室における交感神経受容体刺激を介した心筋線維化にはアルドステロン受容体が関与していることが推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初はラット左心室および心臓線維芽細胞においてアルドステロン合成酵素(CYP11-B2)が発現しており、交感神経受容体を介した心筋線維化にはアルドステロン産生が関与していると仮説を立てていた。 平成24年度にはラット心臓(左心室)および心臓線維芽細胞におけるRAA系の遺伝子発現を解析した。この研究によりラット左心室にはアンギオテンシン変換酵素、レニンの遺伝子発現を確認し、心臓線維芽細胞にはアンギオテンシン変換酵素の遺伝子発現を確認することができた。しかし、左心室ならびに心臓線維芽細胞にCYP11-B2の遺伝子発現は認められなかった。 アルドステロンは細胞質内のアルドステロン受容体に結合することでI型コラーゲン産生を誘導することから、平成25年度には交感神経受容体刺激を介した心筋線維化におけるアルドステロン受容体の役割を解析した。交感神経受容体作動薬を投与したラットでは左心室の心筋線維化が亢進しており、I型コラーゲンの産生が増加していることを確認した。一方、これらの反応はアルドステロン受容体阻害薬(エプレレノン)の併用によって抑制された。 これらのことから当初計画にあったターゲット因子をCYP11-B2からアルドステロン受容体に変更することで、交感神経受容体刺激を介したRAA系の調節機序の解明に向けた平成25年度までの目標はおおむね達成することができたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの研究では、左心室ならびに心臓線維芽細胞におけるCYP11-B2の遺伝子発現を確認することはできなかったが、in vivo研究において左心室での交感神経受容体刺激を介した心筋線維化ならびにI型コラーゲンの発現増加にアルドステロン受容体が深くかかわっていることが示唆された。しかし、この結果はカテコラミンによる心拍数、血圧、心筋運動性の変化や特に全身的な交感神経系とRAA系の相互作用の影響を除外することができない。 これらのことから最終年度(平成26年度)は、これまでに確立しているラット心臓線維芽細胞を用いたin vitro研究によって交感神経受容体とアルドステロン受容体の直接的な相互作用(交感神経受容体刺激を介したI型コラーゲンの産生に対するアルドステロン受容体の役割)を解析する必要がある。研究ではin vivo研究と同様に、交感神経受容体作動薬(イソプロテレノール)とアルドステロン受容体阻害薬(エプレレノン)を使用する。これらの薬剤を暴露した培養細胞におけるI型コラーゲンおよびリン酸化ERK1/2の蛋白発現量の変化を解析する。さらに、ELISA法を用いて培養上清中におけるアルドステロン分泌の有無を確認し、交感神経受容体刺激とアルドステロン受容体の相互作用を介したI型コラーゲンの産生機序を解明する計画である。 我々は昨年度までにラット心臓線維芽細胞の初代分離培養法、ウェスタンブロット法を用いたI型コラーゲンおよびリン酸化ERK1/2の解析技術を習得している。また、予備実験においてもイソプロテレノールはラット心臓線維芽細胞におけるI型コラーゲンおよびリン酸化ERK1/2の蛋白発現量を増加させ、エプレレノンはI型コラーゲンおよびリン酸化ERK1/2の蛋白発現量を抑制することを確認しており、技術的な課題はないと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度までは研究計画が概ね計画通りに進んでいたため、無駄な出費を抑えて次年度の研究に充てる計画である。 また、今後の研究に必要な研究試薬・消耗品はいずれも1件数万円することから、最終年度に使用する計画であった。 昨年度ならびに今年度の未使用額を合わせて、今後の研究に必要となる研究試薬・消耗品の購入に充てることで、今年度中に交付額を使用する計画である。
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