研究課題/領域番号 |
24580468
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
佐々木 典康 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (20307979)
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キーワード | マイクロRNA / ネコ / 糖尿病 / バイオマーカー |
研究概要 |
マイクロRNA(miRNA)は低分子のノンコーディングRNAであり、主に翻訳を阻害し、遺伝子の発現制御を行っている。本研究ではネコの代謝、特に糖尿病や肥満におけるmiRNAの役割を解析するために次世代シーケンサー(NGS)によるネコmiRNAの網羅的解析を行った。 健常成雌ネコ(雑種)の後腹膜脂肪組織RNAをNGSで解析し、データベース上の他動物種の既知miRNA配列とBLASTNによる相同検索を実施した。相同検索の結果、成熟miRNAと一致したものが669万本、またヘアピンmiRNAのデータベース配列と一致したものが2万本あった。データの精度を上げるためにリード本数が50本以下の配列を解析から除外し、また配列の重複を精査した結果、今回169種類がネコmiRNAとして新規に同定された。マイナーフォームであるmiRNAスターは見いだされていない。またネコ脂肪組織には少なくとも26種類以上のmiRNA-5pおよび-3pが存在することが明らかとなった。 ネコ脂肪組織でもっとも発現が高いのはmiR-10bで、ついでmiR-143であった。ブタ脂肪組織での発現をみた報告との比較では、上位40種のうち異なっていたのは12種類のmiRNAだけで、あとは発現量に違いはあるもののほぼ同じであった。もっとも発現の多いmiR-10bは脂肪細胞分化への影響はほとんど報告されておらず、標的遺伝子がEカドヘリンでありため血管増生に関わると考えられる。脂肪組織は血管新生が盛んなためと推測される。また、脂肪分化を促進するmiRNAと抑制するmiRNAが混在していたが、組織での解析のためさまざまなステージの細胞が混在した結果と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
次世代シークエンサー(NGS)によるネコmiRNAの解析は当初計画案のとおりに進行し、169種類のネコmiRNAを得ることができた。解析に予定以上の時間がかかったため計画の進行に多少の遅延が生じたことは否めない。平成25年度には、この同定されたネコmiRNAのデータをもとに、ヒト、マウスなどの既存のmiRNAからネコmiRNAと同じ配列を選び出し、ネコmiRNA用カスタムマイクロアレイを作製する計画であった。しかし、NGSで得られたデータを検討したところ、既存のマイクロアレイではネコ特有のmiRNAのいくつかが検出できず、またネコ脂肪組織のNGS解析では検出されなかった未知miRNAを見逃す恐れがあることが予想された。そこで当初計画案を変更し、カスタムマイクロアレイの作製計画は中止し、ネコ血中miRNAの解析もNGSを利用した網羅的解析で行うことにした。そのために、平成25年度に申請したカスタムアレイ作製にかかる経費を平成26年度に繰り越して使用する計画に変更した。 また培養脂肪細胞を用いたネコmiRNAの機能解析についてはNGSの解析結果に基づいて、脂肪組織中で多量に発現しているmiRNA種をリアルタイムPCRでmiRNA種別毎に発現量確認を行っている。概ねNGSの結果とリアルタイムPCRの結果には関連があるようであるが、詳細については現在追加解析中である。また標的候補遺伝子の発現量については確認が遅れており、鋭意実験を実施している状況である。 当初計画案からは詳細な解析部分に多少の遅れが見られるが、全体としては致命的な遅延などは認められず問題ない範囲と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成26年度では、ネコ血中miRNAの測定を行い診断用バイオマーカーとしての可能性を検討する予定である。前述したように当初計画したカスタムアレイによる解析ではネコmiRNAの解析には不十分であるため、血中miRNA解析にもNGSを利用する計画に変更した。NGS解析は計画当初よりも安価に利用できるとはいえ、カスタムアレイよりも経費が必要となることから、個体別の解析をせずにプールした血清を解析に用いる群解析とすることにした。測定にはネコのプール血清を用い、血中に存在するエクソソームを抽出し、エクソソームに含まれるmiRNAをNGS解析し網羅的な発現量変化を求める。また、単に健常ネコ血清と糖尿病ネコ血清を比較するだけでなく、ネコの基本的な栄養状態でのmiRNA変動も観察することにした。すでに採取を終えている健常ネコの食後および空腹時血清をプール(各群5頭)しNGSで解析する。 また昨年度に詳細な検討が終わっていない脂肪細胞培養系でのmiRNAの役割解析と、標的遺伝子の検索の実験も継続して行う予定である。特に変動の著しいmiRNAをsiRNAによりノックダウンした場合の作用を検討し、脂肪細胞分化およびインスリン抵抗性機序発現メカニズムの解明を急ぐ。 また最終年度であることから、解析の終わったデータを早急に取りまとめ専門雑誌へ投稿を行い、結果を公表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
先に述べたように平成25年度はネコmiRNAのデータをもとにネコmiRNA用カスタムマイクロアレイを作製する計画であった。しかし、NGSで得られたデータを検討したところ、カスタムアレイを作製したとしてもマイクロアレイではネコ特有のmiRNAのいくつかが検出できず、またネコ脂肪組織のNGS解析では検出されなかった未知miRNAを見逃す恐れがあることが予想された。そこで当初計画案を変更し、カスタムマイクロアレイの作製計画を中止とし、ネコ血中miRNAの解析もNGSを利用した網羅的解析で行うことにした。そのために、平成25年度に申請したカスタムアレイ作製にかかる経費を平成26年度に繰り越して使用する計画に変更した。 当初は平成25年度中にNGS解析を始める予定であったが、NGS解析は安価に利用できるようになったとはいえカスタムアレイよりも経費が必要となることから、個体別の解析をせずに複数個体からの血清をまとめたプール血清を用いて解析を行うことにした。よって未使用の経費はすべてNGS解析に使用するものである。また、単に健常ネコ血清と糖尿病ネコ血清を比較するだけでなく、ネコの基本的な栄養状態でのmiRNA変動も観察することにしたため、すでに採取を終えている健常ネコの食後および空腹時血清をプール(各群5頭)し、血中からmiRNAを抽出してNGS解析を行う計画とした。NGSの結果、得られたデータから各miRNAの発現レベルを100万リード当たりのリード数として比較を行い、栄養状態および糖尿病でのmiRNAの変化を検討する予定である。
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