本研究の目的は、大気中に含まれる二酸化窒素(NO2)によるバイオマス蓄積促進等植物成長促進作用(バイタリゼーション)の原因となる遺伝子と共発現する遺伝子群の解析を通じた同作用の分子機構の解明である。 まず、シロイヌナズナの第8葉について細胞動力学解析を実施し、NO2非処理区では播種後19-21、21-23および23-33日目にそれぞれ葉成長の第1、2および3 phaseにあることが分かった。また、NO2非処理区では全体に2日以上早くなることが初めてわかった。 これまでの研究から明らかとなった原因遺伝子VITA1と共発現する遺伝子群について公開データベースを用いて調査した。しかし、共発現遺伝子の情報が少なく(VITA1は機能未知であるためと考えられる)、遺伝子を特定するには至らなかった。そこで、VITA1の遺伝子破壊株(vita1)と野生株について、NO2処理区および非処理区植物体について、マイクロアレイ解析した。その結果、vita1では概日リズム関連遺伝子の発現が野生株比で抑制されることが新たに分かった。 また、これまでの研究からVITA1はバイオマス蓄積を促進するが花成は阻害する因子であることが分かっている。この結果から、VITA1タンパク質と相互作用する何らかの細胞内タンパク質の存在が予想された。すなわち、NO2処理によりVITA1タンパク質が増えバイオマス蓄積が促進されるが、同時にVITA1と相互作用する(花成阻害作用を抑える)細胞内タンパク質が増え、その結果花成が促進されると考えられる。そこで、最終年度においてVITA1と相互作用するタンパク質について酵母ツーハイブリッド法によりスクリーニングを行った。その結果,これまでに3つのポジティブなクローンが得られた。これらのクローンはバイタリゼーション作用分子機構の解明の有力な手がかりになると考えられる。
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