研究課題/領域番号 |
24580479
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
北村 美江 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (40108337)
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研究分担者 |
山口 健一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (90363473)
西山 雅也 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (50263801)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 鉄欠乏 / ストレス耐性 / フラビン類 / ミトコンドリア / 呼吸鎖複合体 / 根 / 双子葉植物 / 土壌細菌 |
研究概要 |
砂漠化防止へのアプローチとして、アルカリ土壌でも育つ、鉄欠乏耐性植物ヒヨスの根の生存戦略の解明に取り組んだ。具体的には、研究代表者が提案した鉄欠乏下で機能しているミトコンドリアの呼吸鎖電子伝達系のモデルの検証とその根が生育時にリボフラビンを放出する機構を明らかにすることを目的に研究を進めた。 鉄欠乏下で抑制されていると考えた呼吸鎖電子伝達系の構成要素で、鉄要求量が高い、複合体I、 II、および、ポンプ機能を持たない代替オキシダーゼの遺伝子をクローニングし、ヒヨスのこれらの遺伝子の発現をRT-PCRで解析した。その結果、鉄欠乏下でも転写レベルでは発現量の低下はみられなかった。そこで、蛋白質レベルでの発現の違いを見るため、プロテオーム解析を進めた。当初、野生植物に近いヒヨスの場合、タンパク質の抽出、更にその後の電気泳動による2DEの分離が困難だったこと、更に従来法だと大量のサンプルを必要とすることから、様々な模索をし、独自の方法を確立した。従来、プロテオーム解析が進められなかった材料にも適用できる方法論の確立で、プロテオームの更なる進展に貢献できた。実際に、この方法を用いて、ヒヨスの根の解析を進めた結果、50mgの材料、20マイクロgのタンパク質の使用で、鉄欠乏下と鉄十分下のものの比較が可能となり、50個以上のタンパク質に発現の差を見出だした。この中に、複合体Iの発現低下が確認でき、提案したモデルの一端が正しかったことが証明された。 また、リボフラビンを放出する機構への解明の糸口として、リボフラビンの分泌がde novo合成の亢進によるものか、あるいは、結合型FMNやFADの分解によるものかを、リボフラビン関連合成酵素遺伝子の発現解析、およびFMN分解酵素活性の測定により検討した。その結果、両者の促進により、リボフラビンが分泌されることを明らかにでき、論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄欠乏下で機能しているミトコンドリアの呼吸鎖電子伝達系のモデルの検証に関しては、今年度、ヒヨスに特異的な複合体I, IIおよび代替オキシダーゼの遺伝子クローニングを済ませ、これらの遺伝子発現量をRT-PCRで調べた。しかし、mRNAレベルでは顕著な減少は検出できなかったことから、蛋白質レベルの解析に重点を移した。 プロテオーム解析の結果から、呼吸鎖複合体Iの構成タンパク質2つの発現低下が確認できた。更に、ATP synthase の構成蛋白質も低下がみられることが、新たに判明し、モデルの検証のみならず、新たな提案も可能となった。同時に、呼吸鎖複合体Iのco-factor であるFMNの分解酵素の活性が鉄欠乏下で上昇していることを明らかにできたことから、研究代表者が提案した複合体Iの機能低下により、使用されなくなったリボフラビンが分泌されているとする仮説を支持するものとなった。 また、鉄欠乏下で根の組織や細胞の構造の変化を、共焦点顕微鏡を用いて解析を進める中で、鉄欠乏下では根の分裂・伸長領域の細胞の縦方向の伸長が抑制されるのに対し、横方向への拡張促進と細胞数の増大により、根が短く太くなることを明らかにできた。この細胞構造の変化とリボフラビン分泌との相関が今後の課題である。 一方、鉄欠乏下で他のフラビン類を分泌する、キュウリやヒマワリ、トウガラシなどについて、リボフラビン類縁体を分泌すること、リボフラビンより脂溶性や水溶性の高いものなど、植物種で、分泌される化合物が異なることを明らかにできた。しかし、単離精製の目的で、大量に分泌物を集めることを進めたが、単離過程で酸化により、化合物が変質するなど、今後、構造決定に向けて安定化の模索の必要性が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案したモデルの正当性の検証と、植物種によって異なるフラビン類が放出される理由について、今後は特に、1)鉄欠乏下でのフラビン類の放出はフラビンタンパク質の呼吸鎖複合体 Iや IIの不活化と連動しているのかを明らかにし、また、2)ヒヨス以外の植物で分泌が確認できたフラビン類の化学構造の決定と土壌微生物の同定など、フラビン類放出の生態学的な意味を探る。 具体的には①前年度は主に、可能性タンパク質を中心に、プロテオーム解析を進めた結果、複合体I以外の呼吸鎖複合体に関わる蛋白質やフラビン輸送タンパク質のような膜タンパク質は解析できなかった。このことから、今後、不溶性の膜たんぱく質の可溶化とその後のプロテオミクス解析を進める。その上で、目的とするタンパク質の同定を目指す(山口)。 ②更に、電子伝達系に関与する各構成タンパク質の酵素活性を測定し、経時変化を調べることでこれらのタンパク質の働きを明らかにする(北村)。③前年度は主に細胞の構造変化を細胞のサイズの測定によって明らかにしたが、今年度は好気呼吸を担うミトコンドリアに注目し、鉄欠乏下に置かれた後のミトコンドリアの活動の変化を共焦点レーザー顕微鏡で経時的に観察する(北村)。④フラビン類の化学構造の解析を行う前提として、前年度に明らかになった不安定性の問題解決が必要とされている。まずは安定的に単離精製をすすめるための方法論を確立し、構造解析を進める(北村・山田)。⑤鉄欠乏下で栽培したヒヨスをはじめ、キュウリやヒマワリなどの双子葉植物の根圏のバクテリアを培養し、鉄欠乏下で特異的に増加したバクテリアの単離と同定を行う(西山)。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の経験から、プロテオーム解析と遺伝子発現解析のための試薬とゲルなどの消耗品が高価なことから、次年度も消耗品としては、主に、これらに多くの研究費を使用する計画である。また、研究室が手狭になったことから、オープンラボの借り上げのための費用も計上する。更に、次年度は前年度に明らかな研究成果が得られたことから、学会発表(国際学会を含む)のための旅費に、更には論文発表のための英文校閲と投稿料(open journal)にかなりの研究費を使用する計画である。 加えて、今年度の経験からプロテオーム解析には細かい作業とデータベース解析に精通した人の配置が不可欠なことが明らかになった。そこで、プロテオーム解析に専念してくれる研究補助員を一名、雇用し、研究の更なる発展を進める予定である。 なお、プロテオーム解析の装置が老朽化してきたこと、及び共焦点レーザー顕微鏡の故障も予想されることから、これらの部品の更新の可能性があり、不測の事態に備え、そのための予算を確保しておく。
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