研究課題/領域番号 |
24580481
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
上田 光宏 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50254438)
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キーワード | 糖質分解酵素 / 低温適応性 / ミミズ / キチナーゼ / アミラーゼ / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
脱リグニンされた植物バイオマスは,高温の酸あるいは耐熱性の酵素を用いて高温条件下で糖化が行われている.糖化過程に必要な熱エネルギーは主に化石燃料(重油)が用いられていることから,コスト高になるとともにCO2ガスの排出量も期待されるほど削減できていない.化石燃料に依存しない社会を構築するためには,低温糖化・低温発酵(並行複発酵)する技術の開発が望まれる.低温条件で糖化することができれば,加熱するためのエネルギーを節約できるだけでなく,並行複発酵法により高濃度のエタノール生産が可能となる.現在,デンプンの糖化には耐熱性酵素が用いられている.また,木質バイオマスの糖化には微生物由来のセルラーゼ(最適温度60~70℃)が用いられているが,効率よく分解する酵素が存在しないのが現状である.そこで,これまでの酵素の性質の弱点を補うとともに,工業的にも利用できる酵素のスクリーニングを行ったところ,デンプンやセルロースに対する分解能が高く,低温活性を有する酵素がミミズに存在することを明らかにした. 現在,ミミズ由来糖質分解酵素(セルラーゼ,アミラーゼなど)遺伝子のクローニングを行い異種宿主での発現を行っている.セルラーゼに関してはエンド型セルラーゼ遺伝子(EF-EG2)をクローニングし,大腸菌と酵母( Pichia酵母)での発現に成功している.精製したEF-EG2は低温活性を有していた.また,X線結晶構造解析によりEF-EG2 の構造を明らかにしている.本酵素は構造既知の低温適応酵素と同様,分子表面が負電荷に富んでいたことから低温適応性との関連が示唆された.次にアミラーゼに関しては,α-アミラーゼ遺伝子のクローニングを行い,異種宿主での発現を試みた.大腸菌を用いて発現を行ったが,インクルージョンボディーでの発現しか認められなかった.現在,他の宿主での発現を試みている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミミズ由来の低温適応性を有するエンド型セルラーゼ(EF-EG2)に関しては,遺伝子をクローニングし異種宿主での発現に成功し,その性質を明らかにしている.また,X線結晶構造解析により高次構造も明らかにしている.構造並びに機能面からそれぞれデータを取得し,論文としてまとめた. アミラーゼ遺伝子においては,すでに数種類の遺伝子のクローニングに成功している.今後,発現に成功すれば機能面だけでなく,立体構造も明らかとなる可能性が高い.
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今後の研究の推進方策 |
ミミズ由来のセルラーゼに関しては,これまでにエンド型セルラーゼ(EF-EG2)の構造と機能に関する研究を進めてきた.今後は,セルロース分解時に生じるセロオリゴ等に作用するエキソ型酵素(β-グルコシダーゼ)をコードする遺伝子をクローニングと発現さらには立体構造を明らかにしていく予定である.利用面からは,ミミズ由来の酵素と市販の酵素製剤とを用いてカクテルを作製し,低温下での糖化・発酵(並行複発酵)を目指す. アミラーゼに関しては,アミラーゼ遺伝子を異種宿主(酵母,昆虫細胞,動物細胞)を用いて発現を試みる予定である.発現に成功すれば,酵素の酵素化学的性質を明らかにするとともにX線結晶構造解析を行い,高次構造を明らかにしていく. ミミズ由来の低温適応性を有する酵素タンパク質の特徴を機能面だけでなく構造面からも知見を集積していく予定である.
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