研究課題
基盤研究(C)
セレン・テルルはその元素材料としての重要性からレアエレメントとしての希少性があり、廃液、廃棄物中からの有効な回収、再資源化手法の確立がのぞまれている。とりわけ、生物的手法は微生物の酸化還元による手法では、毒性の高いセレン・テルルの酸化物(セレン・テルルオキサニオン)を常温・常圧下のマイルドな条件で元素体のセレン・テルルにまで変換できる。そこで、微生物による効率的なセレン・テルル回収法の開発を目的として、三陸沖の日本海溝6千から7千メートルの深海底からセレン・テルルオキサニオン還元能を有する微生物を探索し、得られた分離株に対するキャラクタリゼーション、培養特性、形成されたナノ微粒子の観察、元素分析を実施した。これらの研究結果を通じて、6千から7千メートルの深海底からセレン・テルルオキサニオンを還元しながら生育できる微生物であることが明らかとなった。得られた分離株は亜セレン、もしくはテルル酸を嫌気、好気の両条件で還元しながら増殖し、菌体内や菌体近傍に電子密度の高いナノ微粒子を形成することが透過型電子顕微鏡(TEM)によって明らかにされた。形成されたナノ微粒子は亜セレン酸還元性の分離株では、球状で50から200nmの大きさを有しており、エネルギー分散型元素分析装置(EDX)による元素分析によってほぼセレンのみで構成されていた。これに対してテルル酸還元性分離株の場合では、TEM観察EDX解析によって、ほぼテルルで構成されている幅が数ナノメートルで10から200nmの長さを持つ針状微粒子の形成が判明した。これらの結果から深海底からの分離株が毒性の高いセレン・テルルオキサニオンをそれぞれ元素体のセレン・テルルに変換できることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当該年度おける研究目標としては、分離株の純化をはじめ、研究に供する分離株のキャラクタリゼーション、培養特性の把握、カルコゲンオキサニオンの変換可能性について明らかにすることが主要なものであったことから、これらの研究課題の遂行はほぼ達成されたと考えられた。また、現在、16SrDNA配列に基づく分離株の分子系統分類についても着手しており、既にいくつかの分離株についても種属の同定が済んでいる。これらの結果からはShewanella属に属することが明になりつつあり、元素回収のみならず微生物電池の生物素材としても利用できる可能性が示されている。また、分離株を用いた元素回収用バイオリアクターの構築にも着手できる状態となっている。
昨年度までの研究課題で遅れ気味であったバイオリアクターの作製について優先的に研究を進展させる。また、セレン・テルルオキサニオンから形成された元素体セレン・テルルの回収・変換率などを明らかにする。また、遺伝子・分子生物学的手法を用いたセレン・テルルオキサニオン還元に関与する分子種の特定、還元機構の解明に向けた研究を実施する。さらに分離株がShewanella属に属する微生物種であることから、セレン・テルルと銀、パラジウムなど貴金属元素のナノ微粒子への同時変換回収の可能性についても関連研究を行いたいと考えており、分離株の元素回収用の生物素材として活用可能性を明らかにする研究の遂行を予定している。
バイオリアクターの構築や形成微粒子の特性の把握、回収率などを検討するためには安定した菌体確保が必要であり、菌体集菌用の遠心機の購入をすすめ、円滑かつ効率的な菌体確保について務める。また、分子系統分析や遺伝子・分子生物学的手法を用いたセレン・テルルオキサニオン還元に関与する分子種の特定、還元機構の解明に向けた研究を遂行させるためにシーケンス解析などの分析委託や生化学・遺伝子試薬の購入を主に行う。加えて、本年度中に昨年度得られた成果の積極的な公表を考えており、ジャーナル投稿や国際会議での発表に関する予算の遂行を予想している。
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Luminescent Microbial Biosensor: Design, Construction and Implementation” Gerald Thouand, editor, Pan Standford publisher
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