研究課題
環境汚染物質が生体内に取り込まれた際に、その作用は生体内に存在する様々な物質との複合作用として表れるものと考えられる。本研究では、環境汚染物質として、まず多環芳香族炭化水素の1つであるbenzo[a]pyrene(BaP)を取り上げた。これまでにBaPは、エストロジェン様作用が認められた物質で、生体内の女性ホルモンであるエストロジェンとの共存下ではどのような作用が表れるかを調べることにした。また、植物エストロジェンである大豆イソフラボンのゲニステインと、比較することにした。この際、エストジェン受容体(ER)を発現しているヒト乳がん細胞MCF-7を用いて、細胞増殖試験、標的遺伝子による遺伝子発現解析の手法を用いた。標的遺伝子としては、エストロジェン応答遺伝子であるpS2、AhR標的遺伝子であるCYP1A1、炎症マーカー遺伝子であるIL-6を用いた。BaPとエストロジェンを共に細胞に曝露させると、低濃度のBaPでは、エストロジェンの細胞増殖作用がそのまま表れるが、10-6 Mや10-5 Mの高濃度のBaPでは、エストロジェンの作用が打ち消され、BaP単独と同じレベルの作用が表れる傾向が見られた。ゲニステインとBaPの共曝露でも、同様の傾向が認められた。従って、BaPは、エストロジェンやゲニステインの増殖作用を抑制することが考えられた。BaPとゲニステインの共曝露において遺伝子の発現レベルを解析すると、10-5 Mや10-6 MのBaPは、ゲニステインによるpS2の発現のレベルを低下させ、逆にゲニステインはBaPによるCYP1A1やIL-6の発現誘導を濃度依存的に抑制した。これらの作用は、リガンドとしてのERへの結合能に関係していることも考えられ、AhRを含めて調べていく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
今回、BaPと、エストロジェンやゲニステインの複合作用について調べたが、BaPと天然のエストロジェンやイソフラボンでは、どのように異なるのか、その作用メカニズムの一端を明らかにできるものと考える。また、BaPでは、エストロジェンやゲニステインの作用を抑制する傾向も示され、生体内に入った際の影響も予想される。一方、BaPの塩素置換体、臭素置換体については、やや異なる結果も得られており、再度検証する必要がある。また、エストロジェンと、ゲニステインやダイゼインの複合効果についても検討した。低濃度のエストロジェンに、ゲニステインやダイゼインが加わると、エストロジェン様作用が高まり、細胞増殖が促進されるが、高濃度のエストロジェンに、ゲニステインやダイゼインが加わっても、エストロジェン作用以上にその効果を上げることはなく、むしろ抑制する傾向がみられ、現在も検証中である。そして、これまでPCR Arrayなどにより、新規リスク評価系のための有効な遺伝子マーカーを見つけることを試みたが、pS2、CYP1A1、IL-6を初めとして、いくつかの候補が出ている。実際に種々の物質でどのような結果になるか、上記の複合作用も含めて、調べているところである。環境汚染物質のリスク評価に適した標的遺伝子を探索することで、遺伝子発現解析に基づいた簡便な新規のリスク評価系の開発が可能となるものと考える。
1.ハロゲン化多環芳香族炭化水素の合成及び精製:既に確立した方法に従い、phenanthrene(Phe)、fluoranthene(Fluor)、pyrene(Py)、benz[a]anthracene(BaA)、benzo[a]pyrene(BaP)を親物質として、塩素置換体、臭素置換体を単離精製する。2.多環芳香族炭化水素及びハロゲン化多環芳香族炭化水素と天然物質の複合効果の解析:25年度に引き続き、多環芳香族炭化水素や塩素や臭素が付加したハロゲン化多環芳香族炭化水素では、エストロジェン、ゲニステイン、ダイゼインなどの天然物質との共存下で、どのような複合効果を示すか解析する。細胞増殖試験、上記標的遺伝子による遺伝子発現解析の手法を用いて行う。3.標的遺伝子群のPCRアレイキットの開発:環境汚染物質のリスク評価に適した標的遺伝子群を絞り込み、96 well plateを用いた解析キットを作成する。リスク評価マーカーとして選択された遺伝子群の関連性を調べることで、個体レベルでの影響評価にもつなげる。
プラスチック器具や試薬類について購入済みのもので充足していたため、その分、次年度に回った。上述の研究を進めるため、以下のような、細胞培養やRNA抽出、real-time PCRで用いるプラスチック器具、試薬を中心に購入する。また、RNAなどを定量をする吸光度計が老朽化しているため、分光光度計も購入したい。プラスチック器具:滅菌10 cmシャーレ、滅菌96 well プレート、滅菌50 mL遠心管、、滅菌10 mLピペット、滅菌25 mLピペット、1.5 mLチューブ、チップ、PCRチューブ、8連PCRチューブ、PCRプレート 試薬:RNeasy Mini Kit(Qiagen)、RNase-Free DNase Set(Qiagen)、Superscript III First-Strand Synthesis System for RT-PCR (Invitrogen)、QuantiTect SYBR Green PCR Master Mix (Qiagen)、Cell Counting Kit-8 (Dojin)、Dulbecco's modified Eagle medium (Nissui)、phenol red-free DMEM (Gibco)、fetal bovine serum (ICN Biomedicals)、charcoal/dextran treated FBS (Hyclone)、合成プライマー 旅費:学会、研究会 その他:印刷費
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (10件) 備考 (1件)
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