研究課題
基盤研究(C)
ストレス環境下において植物の細胞分裂活性を維持することは、ストレスに適応した持続的な成長と個体の生存の両方に重要である。植物の組織は、メリステムの細胞が分裂し、さらに分化することによって形成される。また、メリステムの機能維持のためには、細胞分裂が細胞分化と協調されておこなわれる必要がある。本研究では、メリステムでのこのような分化と調和した細胞分裂の活性がストレス環境下でどのような制御によって維持されるのか、その機構を分子レベルで解明することを目的として研究を進め、これまでに以下の成果を得た。ストレス環境下での細胞周期の制御に関わるイネ因子RSS1はタンパク質脱リン酸化酵素PP1と結合することが示されているが、イネの複数のPP1の中でもOsPP1が高いRSS1親和性をもつことを新たに示した。またOsPP1が、RSS1の安定性に寄与するN末端側のドメインではなく、C-末端側の機能領域に結合すること、RSS1タンパク質が熱処理による変性を受けにくく、熱処理後もPP1への特異的な結合活性を有することを示した。RSS1の機能欠損変異体では、メリステムの分裂細胞において、細胞分裂周期のG1期からS期への移行がストレス依存的に強く阻害される。このことから、G1-S期移行の抑制因子Rbの機能調節にRSS1が関わる可能性が示唆されている。イネゲノムには2種類のRbホモログがコードされているが、その1つであるOsRBR1の変異体を同定した。この変異体を圃場で生育させたところ、顕著な生育遅延や不稔性が確認された。また、Rbの活性を人為的に制御することを目指し、Rbの機能を阻害するRepAタンパク質をコードする遺伝子をデキサメタゾン誘導性プロモーターの下流に連結させたコンストラクトを作出した。さらに、この融合遺伝子を導入したイネカルスおよび再分化イネ個体を得た。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、ストレス環境下での細胞分裂周期の制御メカニズムの解明を目指しているが、これまでにその制御に関わるイネのRSS1因子が複数のPP1と相互作用すること、その相互ドメインがRSS1の機能ドメインと重複することを見出してきた。また、RSS1は熱ストレスに対する耐性にも関与することが示唆されているが、RSS1分子自体が熱による変性を受けにくい性質をもつこと、熱ストレス存在下でもPP1結合能を失わないことを示すことができた。さらに本研究では、イネにおいて細胞分裂周期の人為的な制御を引き起こすことや、それによる環境ストレス耐性への影響を評価することを目指している。本年度は、細胞周期のG1-S期以降の制御因子Rbの活性を制御するための実験系の構築を目指してきたが、そのために必要なプラスミド構築やイネの形質転換を進めることができた。以上より、研究目的に対して概ね順調に進展しているとした。
RSS1と結合するPP1がRbとどのように相互作用するのか、またRSS1はRbの活性に影響を及ぼし得るのかを酵母ツーハイブリット系やSplit-YFP、共免疫沈降実験、in vitroタンパク質脱リン酸化アッセイ系によって調べる。また、RSS1がPP1の活性制御因子ではなく、基質としてはたらく可能性をphos-tagゲル電気泳動により調べる。前年度に引き続き、G1-S期移行の抑制因子RbのイネホモログOsRBR1の機能について解析する。具体的には、OsRBR1の機能欠損型変異体のヘテロ親より分離した変異ホモ個体をストレス存在下で生育させ、分裂組織の観察や細胞分裂活性の調査を行なう。また、変異体の生育遅延や不稔性がどの段階でどのように起きているのかを調べる。前年度作出したRepのデキサメタゾン誘導系を導入したイネのカルスや植物体を用いて、人為的なRb活性の制御を試みると同時に、ストレス存在下での分裂活性への影響を調べる。
当該研究費が生じた状況:次年度について、さらなる研究を追加することにしたため、さらに研究費が必要と考えられた。そこで、次年度の研究に予算面での支障がないよう、物品の購入を控えるなどして、当該年度の支出の節約につとめた。研究使用計画:これまでの研究計画に沿った研究に加えて、以下の研究をさらに遂行する。イネを含む植物の成長には植物ホルモンの1つであるジャスモン酸が抑制的にはたらくことが知られている。そこで、ジャスモン酸がどのレベルで、細胞分裂あるいは細胞伸長を抑制するのかを明らかにする。具体的には、根の分裂活性や伸長に対するジャスモン酸の作用や、これらに関わるジャスモン酸シグナル伝達因子の同定及びその機能解析を行う。これらによって、根の分裂活性と伸長活性のバランスがどのように保たれているかについての知見を得る。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Plant Physiol. Biochem.
巻: 61 ページ: 54-60.
doi: 10.1016/j.plaphy.2012.09.006.