研究課題
本研究では植物メリステムの機能が環境ストレス下においてどのように維持されるのかを、イネを用いて調べている。本年度においては、以下のような進展がみられた。1. ジャスモン酸を不活性化するCYP94C2b酵素遺伝子を過剰発現させたイネの解析から、ジャスモン酸シグナリングの抑制が、塩ストレス下でのイネの成長や生存を高めること、ならびに塩ストレス誘導性の葉の老化を抑制することを見出した。また同時に、ジャスモン酸シグナリングの抑制が、メリステムや葉原基の活性の保持にも寄与すると推定した。これらの効果には、サイトカイニンの作用が関与する可能性が考えられたため、サイトカイニン応答性マーカー遺伝子の発現解析を行った。その結果、少なくとも葉の老化抑制についてはサイトカイニンの作用を介さないことが判明した。2. ジャスモン酸シグナリングに関わる因子に変異を導入したイネを作出したところ、小穂の発達異常が見出された。この異常は頴の繰返し形成、小花様器官の繰返し形成(貫生化)等を伴うことから、このイネではメリステムでの細胞分裂や分化の異常のみならず、メリステムの転換の異常や有限性の欠如が起きているものと推定された。これらの結果は、ジャスモン酸シグナルに関わる因子がイネの小穂メリステムの維持や転換のプログラムに関わることを示唆している。3. RSS1相互作用因子であるPP1を構成的に発現させるイネの代わりに、デキサメタゾン(DEX)誘導によりPP1を発現させるイネの作出を試みたところ、形質転換イネカルスが得られた。これを用いて、今後さらなる解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
RSS1相互作用因子であるPP1にタグをつけて発現させたイネの作出ができなかったため、デキサメタゾン(DEX)誘導によりPP1遺伝子を発現させるイネの作出を試みたものの、予定通りに実験が進まなかった。しかしながら、ジャスモン酸シグナリングの抑制が塩ストレス下でのイネの成長や生存を高める効果をもたらすことや、塩ストレス誘導性の葉の老化を抑制することを見出すことができた。また、ジャスモン酸シグナリングに関わる因子に変異を導入したイネが小穂の発達異常を引き起こすといった、予想外の結果を得ることができた。
ジャスモン酸シグナリングに関わる因子に変異を導入したイネの解析を行ってきたが、今後はその結果を踏まえ、この因子についてさらなる解析を進める。また、ジャスモン酸代謝に関わるCYP94C2b酵素遺伝子等の過剰発現イネについても解析を進める。さらにまた、デキサメタゾン(DEX)誘導によりPP1を発現させるイネの作出を引き続き進め、その解析を行う。
本年度の研究において、ジャスモン酸シグナリングに関わる因子に変異を導入したイネの解析を行ったが、予想外の結果が得られたため、その一部についてのみ成果を発表した。この解析をさらに進めてきたが、植物試料の調製にさらなる時間が必要となった。また、RSS1およびその相互作用因子をイネに過剰発現させる実験が予定通りには進まなかった。そこで、計画を一部変更して、ジャスモン酸代謝に関わる酵素遺伝子などの過剰発現イネの解析を進めたが、未使用額が生じた。
ジャスモン酸シグナリングに関わる因子に変異を導入したイネの解析や、RSS1およびその相互作用因子をイネに過剰発現させる実験を行うとともに、他の遺伝子の過剰発現イネの解析をさらに進め、得られる結果を論文にまとめて投稿することとし、未使用額をかかる経費にあてることとしたい。
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