研究課題/領域番号 |
24580494
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 恵 岡山大学, 環境生命科学研究科, 助教 (20434988)
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キーワード | N-グリカン / 植物抗原性糖鎖 / Cry j1 / ルイスa抗原 / 淡水性植物 / 糖鎖ポリマー / 樹状細胞 / T細胞 |
研究概要 |
スギ花粉症の原因物質であるスギ花粉アレルゲンCry j1は糖タンパク質でありコア構造にMan3Xyl1Fuc1を有する植物抗原性糖鎖が結合している。これらの構造は非還元末端がN-アセチルグルコサミンやルイスa抗原で修飾されておりヒト免疫系における活性解明が求められている。昨年度は,Cry j1特異的なTh2細胞増殖とTh2細胞からのIL-4産生を有意に抑制するMan3Xyl1Fuc1を,銀杏種子の貯蔵タンパク質から免疫活性解析に必要量得るための親水性クロマトを用いた多量精製法を構築することができた。そこで今年度は,植物中の総存在量が少なく多量精製が困難であるルイスa抗原含有糖鎖について供給源のスクリーニングを行った。試料として河川での異常繁茂と処分方法が問題となっている水草(オオカナダモ,コカナダモ,マツモ,ササバモ)を用いた。5%ギ酸中でペプシン消化を行い,糖ペプチドを陽イオン交換,ゲル濾過により精製した。ヒドラジン分解,N-アセチル化後,糖鎖を蛍光標識し,逆相HPLC,順相HPLCにより分離・精製を行った。糖鎖の構造は酵素消化,質量分析により解析した。その結果,いずれの水草からも植物抗原性糖鎖が主要構造として検出され,そのうち約10~20%はルイスa抗原を有している事が確認された。今回の実験結果から,100 gの水草から約100 nmolのルイスa抗原含有糖鎖を精製することが可能となった。また,卵黄糖ペプチドからのヒト型糖鎖(Gal2GlcNAc2Man3)を,ロイヤルゼリーからヒトと植物で共通構造であるハイマンノース型糖鎖(Man5~9)を精製した。その他に,銀杏種子から植物抗原性糖鎖の抗原性低下に利用可能となる植物キシロシダーゼの精製を行った。植物キシロシダーゼは分子量約60 kDaの単量体であり,蛍光標識糖鎖(Man1Xyl1Fuc1-PA)を基質とすると至適pH5.0で強い活性を示し,N末端配列解析から精製トマトキシロシダーゼと高い相同性を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルイスa抗原含有の植物抗原性糖鎖は淡水性植物から得られることが明らかとなった。ルイスa抗原含有糖鎖は野菜や果物など存在量が比較的多いと報告されている試料からの精製を試みたが,存在量は非常に少なく免疫活性測定に使用するだけの量を精製することは困難であった。そのため今年度の「淡水性植物由来糖タンパク質に結合するルイスa抗原含有糖鎖の発見」は,本研究課題で重要な位置づけとなっている糖鎖ライブラリーの構築を充実させる上で意味のある成果となった。またこの結果は,ルイスa抗原含有糖鎖の植物細胞における生理的意義への関心を高める新しい知見を与える成果ともなった。ルイスa抗原含有糖鎖に加えて,その他の糖鎖(植物抗原性糖鎖,ハイマンノース型糖鎖,ヒト型糖鎖)も多量精製を進めており,糖鎖ライブラリーを利用した糖鎖ポリマーの作製と免疫活性の評価を進展させる予定である。糖鎖ポリマーはγ-ポリグルタミン酸(PGA)(分子量200,000~500,000)とα-PGA(分子量50,000~100,000)への糖鎖結合率について比較検討中である。今年度は免疫活性測定を行えなかったが,培養の条件検討は初年度に行っているため最終年度に得られる成果に期待したい。また,植物抗原性糖鎖の抗原性の原因となっているキシロース残基を除去するキシロシダーゼの精製を行った。残念ながら本酵素は,抗原性糖鎖がある程度代謝された小さい構造である場合(Man1Xyl1Fuc1など)に活性を示すため,抗原性を低下させるための利用には制限があると考えられた。しかしながら,本酵素の植物細胞における生理機能については明らかにされておらず,今後,遺伝子組換え植物の構築が必要とされる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ヒト型糖鎖(Gal2GlcNAc2Man3),ハイマンノース型糖鎖(Man5~9),植物抗原性糖鎖(Man3Xyl1Fuc1,GlcNAc2Man3Xyl1Fuc1,Gal2Fuc2GlcNAc2Man3Xyl1Fuc1)の供給源は定まった。多量精製によって得られた糖鎖を用いて糖鎖ポリマーの作製を進める。これまでは糖鎖ポリマーをγ-PGAのカルボキシル基に糖アミノ酸のアミノ基を結合させることにより作製していた。しかしながら構造均一な糖アミノ酸を得ることが困難な糖鎖構造もあり,ヒドラジン分解により切り出した糖鎖の1位のアルデヒド基をアミノ化してγ-PGAのカルボキシル基に結合させる方法を考案した。今後はα-PGAと共に糖鎖を多数結合させて,糖鎖結合率の比較検討を行う。また,フォスファチジルセリンのカルボキシル基に糖鎖を結合させリポソーム作製も試みる。 (2) 種々の糖鎖,糖鎖ポリマーによるヒト未分化樹状細胞の分化に与える影響について細胞表面マーカー(CD80,CD86)およびサイトカイン(IL-12,IL-10)産生から解析する。T細胞分化に与える影響についても解析を行う。ヒト未分化樹状細胞は細胞数が限られるためCD14+単球を抗原刺激する実験系の構築も行う。 (3) 銀杏種子貯蔵タンパク質から植物抗原性糖鎖の抗原性低下に関わるフコシダーゼの精製と諸性質の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は細胞培養実験を行わなかったため助成金の使用金額が予定よりも少なかった。 細胞培養に必要な培地,血清,サイトカインの購入,フローサイトメーター,ELISA,リアルタイムRT-PCRに必要な試薬類,抗体の購入,並びにプレートやピペットなどのディスポーザブル製品の購入を予定している。
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