研究課題
植物の成長組織中には,遊離型のアスパラギン結合糖鎖(N-グリカン)がμM濃度で存在する。しかしながら,これら遊離型糖鎖の生理機能に注目した研究は少ない。本申請では,糖鎖代謝に関与する酵素の遺伝子発現制御を通して,①遊離N-グリカンの植物成長あるいは果実熟成の制御機構に関わる生理機能を実証するとともに,②その生理機能を植物成長制御技術の開発へ応用することを目的としている。平成25年度には,我々がすでに遺伝子同定に成功しているPNGase の遺伝子情報を基にして,酸性PNGase (aPNGase)遺伝子の過剰発現トマトの構築に成功した。アラビドプシスについては2種類存在するPNGase遺伝子のシングルノックアウト株の掛け合わせにより,aPNGase 遺伝子破壊株の構築を試みた。その結果,aPNGas遺伝子を十数倍過剰発現させたトマトにおいては,果実強度あるいは植物体形態に特異的な変化が確認されるとともに,遊離糖鎖の構造特性が変化することを明らかにした。この結果は,aPNGase 遺伝子の発現レベルが植物分化に寄与していることを示唆している。更に,トマト実生を使用し,根,茎,葉における ENGase,2種 PNGase の遺伝子発現レベル及び遊離糖鎖の構造特性と生成量についての解析を行い,それぞれの遺伝子発現が組織特異的であることを明らかにした。その他,植物複合型糖鎖の代謝分解に関わる酵素の一つである β-ガラクトシダーゼを銀杏種子から単一精製後,酵素学的諸性質を明らかにするとともに,N-末端配列を同定した。精製酵素はルイス a 抗原含有N-グリカンに対して活性を示したことから,複合型糖鎖の代謝に関与することが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画に従って,平成24年度迄には2種糖鎖代謝酵素(PNGase,ENGase)遺伝子をノックアウ或いはノックダウンした植物体の構築やそれぞれの変異体植物が発現する遊離糖鎖の構造特性や生成量変動を明らかにした。平成25年度には,植物に特徴的な酸性PNGase 遺伝子を過剰発現させたトマトの構築に成功するとともに,複合型遊離糖鎖量の変動を確認した。そして,酸性PNGase遺伝子発現昂進が果実強度や植物体形態に特徴的な変化を誘引することを明らかにした。この結果は,遊離糖鎖が果実熟成や植物分化にシグナル分子として機能する可能性を分子生物学的側面から示すものであった。また, ENGaseと2種 PNGase の遺伝子発現レベル及びこれら酵素により誘導される遊離糖鎖の構造特性が,植物組織(根,茎,葉)で特徴的であることを明らかにすることができ,遊離糖鎖の生成場所と機能発現場所が異なる可能性を見出した。以上の結果は,植物分化や果実熟成に関わる遊離糖鎖機能についての新たな知見を与えるものであった。
酸性PNGase 遺伝子の過剰発現がトマト植物体および果実形態に変化をもたらすことを明らかにしつつあるので,中性PNGase およびENGase 遺伝子についても過剰発現体の構築を開始する。これらの酵素は機能発現場所が異なるため,それぞれにより生成する遊離糖鎖も部位特異的な機能を有する可能性があるため,糖鎖遊離酵素の組織分布あるいは細胞内分布解析を分子生物学的手法で明らかにする。また,遊離糖鎖機能を明らかにするためには,2種糖鎖遊離酵素(PNGase,ENGase)の両遺伝子をダブル(遺伝子数的には4重破壊)ノックアウ或いはノックダウンした植物体の構築を完了させることが必要である。更に,生成する遊離糖鎖の分解機構の視点から,遊離糖鎖の分解に関与するα-マンノシダーゼ,α-フコシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,β-キシロシダーゼ等の遺伝子同定と発現系構築を継続して行うとともに,これらグリコシダーゼ遺伝子のノックアウト体あるいは過剰発現体の構築を開始する。
(1)国際学会での成果発表を予定していたが,国際学会(日本-オーストリア間研究交流会)が日本で開催となったため。(2)分析機器使用料金の残余が生じた。(3)最終年度において,糖鎖関連酵素遺伝子過剰発現植物,発現抑制植物の構築,維持,表現型解析等に研究費が必要となるため。(1)機能性糖鎖の構造解析に使用する分析機器使用料。(2)糖鎖関連酵素遺伝子過剰発現植物,発現抑制植物の構築,維持,表現型解析。
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