研究実績の概要 |
リグニン生合成の進化が植物バイオマス生産に及ぼした影響の解明を最終目的とする.コケ植物はリグニン蓄積能は無い.リグニンの生合成は,共通フェニルプロパノイド経路中間体のp-coumaroyl を基質として, p-coumaroyl-CoA ligase (4CL)反応によるp-coumaroyl-CoA生成と,それに続くp-coumaroyl-CoAを基質とするhydroxycinnamoyl-CoA:shikimate hydroxycinnamoyl transferase (HCT)反応から始まる.コケ植物ゲノムに,HCTを始めとする高等植物のモノリグノール経路の遺伝子の存在を確認した.これらの酵素反応を解析にモノリグノール経路中間体を基質として供給するため,バキュロウイルス昆虫細胞発現系で発現させたシロイヌナズナ4CL, HCT, CYP98A (3’-hydroxylase of p-coumaroly shikimic acid)から成る反応系をin vitroで再構成した.ヒメツリガネゴケHCT (PpHCT)は高等植物型反応(p-coumaroyl-shikimate, p-coumaroyl-quinateの産生)を触媒することを明らかにした.しかし PpHCT の次反応を触媒するCYP98Aに高等植物型活性は確認できず,コケ類がリグニンを蓄積しない理由がCYP98A以降の欠損に起因すると考えられた.この仮説が正しければ,コケ植物にシロイヌナズナCYP98とCYP84を導入することで,リグニン産生能を付与できるはずである.この実験は,形質転換が容易なゼニゴケ実験系を用いた.シロイヌナズナHCT, CYP98A, CYP84Aを導入したゼニゴケの代謝変動はOrbitrap質量分析装置によって計測した.主成分分析による非形質転換系統とCYP98A3組換え系統の比較では明確な代謝プロファイルの違いが認められたが,組換え体と非組換え体の間では,経皮酸類の化合物特定はできなかった.以上の結果から,リグニン生合成獲得には,コケCYP98の機能多様化が必須であることがわかった.
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