研究概要 |
フルクタンはデンプンに代わって植物細胞の液胞に蓄積されるショ糖から生産されるオリゴ及び多糖である。ハードニング中および越冬中のフルクタン蓄積量はコムギの耐凍性と雪腐病抵抗性に強く関わる。我々のグループは、すでにフルクタン合成酵素遺伝子を3種類単離しており、そのうちの(sucrose:sucrose1-fructosyltransferase, sucrose:fructan 6-fructosyltransferase)の発現が、コムギのフルクタン含量の季節変化や品種間差異と相関することを報告している(Kawakami and Yoshida 2002)。一方、近年、異なった基質特異性をもつコムギのフルクタン分解酵素遺伝子(FEH, fructan exohydrolase)が幾つか単離された。自然環境下で生育したコムギ組織において、1-FEH, 6-KEH, 6&1-FEH, 6-HEH, Wfh-sm3遺伝子発現の季節変化を解析したところ、秋のハードニング中及び越冬中の発現変化は遺伝子によって異なった。オリゴ糖の分解を主に行う酵素遺伝子は、季節変化に関係なく恒常的に発現するものと、成長が盛んな時期に発現が高くなるものに分かれた。コムギの分岐型フルクタン(グラミナン)構造の全てを分解可能なWfh-sm3は、雪腐病菌接種によって発現が増加し、フルクタン含量の季節変化に関係していた。これらの遺伝子の発現制御が越冬中の環境ストレスに対する品種間差異に重要な役割を担うと考えられる。
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