研究実績の概要 |
フルクタン(fructan)は麦類や寒地型牧草の越冬能力に深く関わる多糖であり、コムギにおいて秋のハードニング時に蓄積されるフルクタン量がコムギの品種間の耐凍性及び雪腐病抵抗性と相関する。近年、異なった基質特異性を持つコムギのフルクタン分解酵素遺伝子(FEH, fructan exohydrolase)が幾つか単離された。本課題では、 圃場越冬コムギのフルクタン分解酵素遺伝子発現の変化を解析し、フルクタン代謝によるコムギの越冬エネルギー蓄積・利用の調節機構を分子生物学的に明らかにすることを目的とした。 圃場越冬中の耐凍性及び雪腐病抵抗性の異なるコムギ品種のクラウンと葉茎組織のフルクタン分解酵素遺伝子の発現を解析したところ、クラウンと葉茎では傾向は概ね同じであった。季節を通して、それぞれ6-ケストース(3糖)とビフルコース(4糖)に強い基質特異性をもつ6-KEH, 6&1-FEHの発現量が長鎖を分解する酵素をコードする他の遺伝子よりも高いレベルで発現していた。ハードニング、越冬期間を通してエネルギー源供給のために、常にこれらの酵素によってフルクトオリゴ糖が分解されている可能性がある。コムギのフルクタンの骨格となるβ(2→6)結合を切る6-FEHはハードニング中に増加し、積雪下で減少し、単・二糖類含量の増減と相関する変化を示した。フルクタンの全ての組成を分解できる酵素をコードするWfh-sm3の発現は、フルクタンが急激に増加する秋口後半に発現量が抑えられ、積雪下で発現が誘導された。フルクタンの蓄積量が高く、雪の下でのフルクタン消費速度が雪腐病抵抗性品種では他品種より一貫して発現が低く推移した。Wfh-sm3の発現変化はフルクタンの季節変化および品種間差異と相関することから、越冬に係わるフルクタン代謝制御のキー酵素遺伝子と推察された。
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