研究課題/領域番号 |
24590006
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
北垣 伸治 名城大学, 薬学部, 教授 (20281818)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有機化学 / パラシクロファン / 有機分子触媒 / 不斉配位子 |
研究概要 |
1)C2対称ビスオキサゾリン配位子の合成と評価:[2.2]パラシクロファン(PCP)のpseudo-ortho位に芳香環スペーサーを介してオキサゾリン環を導入した各種C2対称ビスオキサゾリン配位子を合成し、銅を触媒とするα-ジアゾエステルのエタノールとの分子間O-H挿入反応に適用した。その結果、オキサゾリン環上に不斉中心をもたなくても、シクロファンの面不斉のみで最高76%のエナンチオ選択性を獲得することができた。さらに、フェノールとのO-H挿入反応では79% eeで挿入成績体が得られた。 2)各種ピレニルPCP骨格含有有機酸の合成と評価: 基質とのπ-π相互作用等に基づく立体制御因子としての働きを期待してピレニル基をpseudo-ortho位に配置したPCPチオウレアおよびPCPリン酸を合成し、ブレンステッド酸触媒で進行することが知られているアザ-Morita-Baylis-Hillman(MBH)反応やFriedel-Crafts反応に適用したが、反応は進行するものの不斉誘導を確認することはできなかった。 3)PCPホスフィンの合成と評価:これまでに、芳香環スペーサーを介してフェノール性ヒドロキシ基をpseudo-ortho位に配置したPCPホスフィンを合成し、その反応活性および不斉誘導能を評価してきた。その結果、アザ-MBH反応において最高不斉収率70%が得られていたが、反応の完結に5日を要した。今回、スペーサーの挿入部位をヒドロキシ基側からホスフィノ基側に変えた触媒を合成し使用したところ、不斉収率は48%に低下するものの、10分で反応が完結することが判明した。不斉収率はホスフィノ基のリン原子上のフェニル基をm-キシリル基に置換することで改善され、最高85% eeで目的物が得られた。本結果は、PCPを基本骨格とする酸-塩基複合型不斉触媒開発の初めての成功例と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の礎である、[2.2]パラシクロファン骨格に芳香環スペーサーを介して触媒活性を有する官能基を配置するという分子設計の妥当性については、これまでに、芳香環スペーサーを片側にのみ有するシクロファニルホスフィン-フェノール触媒において証明されていたが、得られるエナンチオマー過剰率が70%程度で十分高いレベルとは言えず、また反応活性も低かった。今回、更なる触媒分子構造修飾の検討の結果、より高い反応性と選択性を獲得することに成功し、設計コンセプトの妥当性をより確かなものとすることができた。これに加えて、芳香環スペーサーを両側にもつC2対称シクロファニルビスオキサゾリン配位子の合成と評価では、オキサゾリン環上に不斉中心をもたなくても、パラシクロファン骨格の面不斉のみで最高79%のエナンチオ選択性が得られることを明らかにし、スペーサーを対称に挿入することの有効性を示すことができた。また、配位子としての利用についても可能性を示せたことから、今後の研究の広範にわたる展開が期待できる。 ピレニルシクロファン骨格含有有機酸の合成と評価においては、チオウレア、リン酸、スルホンアミドを酸性官能基とする触媒を合成したが、残念ながら各種反応において高いレベルの反応活性および選択性を確認することができなかった。酸性官能基とピレニル基との間の協同作業が実現しなかったことについては、今後検証していくと同時に、新たに金属触媒の配位子としての利用に研究の方向性をシフトしていくことになる。
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今後の研究の推進方策 |
C2対称ビスオキサゾリン配位子においては、今のところ金属に配位した状態の構造的情報を得ることに成功していない。今後も、X線結晶構造解析や各種スペクトル測定を引き続き検討していく。配位子の構造最適化については、スペーサー上への嵩高い置換基の導入に加えてオキサゾリン環への不斉炭素の導入を検討し、さらなるエナンチオ制御の改善を図る。また、評価系については、O-H挿入以外の挿入反応や銅を中心金属として用いる各種酸化的カップリング反応を取り入れたいと考えている。 芳香環スペーサーを両側にもつC2対称型シクロファン分子においては、配位子のみならず有機分子触媒への適用を検討していく。C2対称ジカルボン酸、ビススルホンアミド、ビスチオウレア、及びリン酸誘導体の合成を計画している。合成した酸触媒は、Diels-Alder反応やFriedel-Crafts反応、Mannich反応等で反応活性及び不斉誘導能を評価する。 ピレニル基をpseudo-ortho位に配置した[2.2]パラシクロファンを骨格とする触媒の開発では、これまでの有機酸に代わって配位子としての利用を検討する。配位官能基はまず、サリシルアルジミンや不斉点をもたないアミノアルコールで検討を行う。配位させる金属には銅や鉄、チタンなどを用い、Diels-Alder反応や1,3-双極子環化付加反応、Friedel-Crafts反応のようなルイス酸触媒で進行する反応系で配位子としての性能を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、金沢大学から名城大学への異動、および名城大学内での研究室の移転に伴う研究環境の不備により、研究を十分に遂行することが困難であった。25年度は新たな体制のもと、前年度分を挽回すべく研究を推進していく予定である。すなわち、24年度未使用の572,354円に加えて25年度交付予定の直接経費1,400,000円を有効に活用し、研究の進展を図る。具体的には、研究費を試薬、溶媒、シリカゲル、ガラス器具等の消耗品と国内旅費に充てる。
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