研究課題/領域番号 |
24590006
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
北垣 伸治 名城大学, 薬学部, 教授 (20281818)
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キーワード | [2.2]パラシクロファン / 面不斉 / チオウレア触媒 / ビスオキサゾリン配位子 / ホスフィン触媒 / 酸-塩基複合型不斉触媒 |
研究概要 |
1)C2対称ビスチオウレア触媒の合成と評価:[2.2]パラシクロファン(PCP)のpseudo-ortho位に芳香環スペーサーを介してチオウレア官能基を導入した面不斉C2対称ビスチオウレア触媒(1)を合成し,その機能を,スペーサーを持たないオリジナルのビスチオウレア(2)及びスペーサーを一方のみに有する非対称ビスチオウレア(3)と比較した。2で良好な結果が得られているHenry反応とMorita-Baylis-Hillman(MBH)反応に適用したところ,いずれの場合も得られるエナンチオ選択性の順は2>3>1となり,不斉環境がスペーサーを挿入することで大きく変化していることが示唆された。1を用いた場合の反応時間は,2の場合よりも短縮され,活性の向上が認められた。今後,2で良好な結果が得られない反応系に1を適用する予定である。 2)面不斉-中心不斉ハイブリッド型C2対称ビスオキサゾリン配位子の合成:PCPのpseudo-ortho位に芳香環スペーサーを介してオキサゾリン環を導入した面不斉C2対称ビスオキサゾリン配位子を,銅を触媒とするα-ジアゾエステルの分子間O-H挿入反応に用いると,最高79%の不斉収率で目的物が得られることを既に見出している。今回,さらに高い選択性を獲得すべく,シクロファンの面不斉にオキサゾリン環上の中心不斉を組み合せた配位子を合成した。 3)シクロファニルホスフィンの合成と評価:これまでに,PCPのpseudo-ortho位にホスフィンとヒドロキシ基を配置し,ホスフィン側にスペーサーとしてベンゼン環を挿入した酸-塩基複合型面不斉触媒を合成し,アザ-MBH反応において最高不斉収率85%を獲得していたが,今回不斉収率の改善を目指し,スペーサーのベンゼン環をナフタレン環に置換した触媒を合成した。 2と3で合成した化合物は,今後各種不斉反応に適用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の礎である,[2.2]パラシクロファン骨格に芳香環スペーサーを介して触媒活性を有する官能基を配置するという分子設計の妥当性については,これまでに,芳香環スペーサーを片側にのみ有するシクロファニルホスフィン-フェノール触媒及び芳香環スペーサーを両側にもつC2対称シクロファニルビスオキサゾリン配位子において証明されている。今回,芳香環スペーサーを両側にもつC2対称型ビスチオウレア触媒の合成と評価を行ったが,現在のところスペーサー導入に基づく成果は得られていない。しかし,その適用系はスペーサーをもたない触媒で良好な結果が得られているものに限られているため,良好な結果が得られていない反応系への適用では,まだスペーサーの必要性が実証できる可能性がある。また,そのままでは実証できなくても,スペーサーの構造修飾で良好な結果が得られることも考えられる。今回触媒合成において,スペーサーの挿入を容易に達成できたことが重要である。 また,面不斉-中心不斉ハイブリッド型C2対称ビスオキサゾリン配位子や,ナフタレン環をスペーサーとするシクロファニルホスフィンの合成を報告したが,それ以外にピレニルシクロファン骨格含有サリシルアルジミン配位子の合成も進行中であり,計画していた金属とピレン間のカチオン-π相互作用を利用した不斉触媒Diels-Alder反応や1,3-双極子環化付加反応の開発についても,行う準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
芳香環スペーサーを両側にもつC2対称ビスチオウレア触媒については,スペーサーを持たない触媒で良好な結果が得られていない反応系に適用するが,もしその結果,高いレベルの不斉誘起が観測されなければ,スペーサー上のPCP骨格との結合に隣接する部位に置換基を導入し,スペーサーの配座制御を試みる。また,立体制御因子としての働きを期待して,チオウレア官能基に隣接する部位への置換基導入も試みる。さらに,ビスチオウレアの代わりにビススルホンアミド及びリン酸官能基を導入した酸触媒を合成し,Diels-Alder反応やFriedel-Crafts反応,Mannich反応等でその不斉触媒としての能力を評価する。 C2対称ビスオキサゾリン配位子においては,未だ金属に配位した状態の構造的情報を得ることに成功していない。今後も,X線結晶構造解析や各種スペクトル測定を引き続き検討していく。また,評価系については,O-H挿入以外の挿入反応や銅を中心金属として用いる酸化的カップリング反応,特にC-H結合の不斉活性化反応に適用したいと考えている。 ピレニル基をpseudo-ortho位に配置したPCPを骨格とする配位子の開発では,サリシルアルジミンや不斉点をもたないアミノアルコールを配位官能基として選択する。配位させる金属には銅や鉄,チタンなどを用い,Diels-Alder反応や1,3-双極子環化付加反応、Friedel-Crafts反応のようなルイス酸触媒で進行する反応系で配位子としての性能を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度の前半に,諸事情により研究が進行しなかったため。 試薬,溶媒,シリカゲル,ガラス器具等の消耗品とキラルカラムの購入,及び国内旅費に充てる。試薬においては,我々の触媒や配位子を評価する上で既存の触媒や配位子との比較が必要なことから,市販されていればそれらを購入し,されていなければそれらの原料を購入する。
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