1)C2対称ビスオキサゾリン配位子及び酸触媒におけるスペーサー上の置換基効果:[2.2]パラシクロファン(PCP)のpseudo-ortho位に芳香環スペーサーを介してオキサゾリン環を導入した面不斉C2対称ビスオキサゾリン配位子は,銅を触媒とするα-ジアゾエステルのエタノールによる分子間O-H挿入反応に用いると,最高76%の不斉収率で目的物が得られる。良好な選択性の獲得には,芳香環スペーサーとその芳香環上のオキサゾリニル基の隣のフェニル基の存在が重要である。この結果を踏まえて,今年度はO-H挿入反応に用いたエタノールをフェノール誘導体に代えて適用範囲の調査を行った。無置換フェノールを用いて配位子のスペーサー上の置換基の種類を検討した結果,フェニル基の代わりにイソプロピル基が置換した配位子が最適であることが判明し,最高80% eeで挿入生成物が得られた。フェノールの置換基効果を調査したところ,電子求引性の塩素原子がパラ位に置換したフェノールの場合に収率と選択性が低下したこと以外に大きな差は認められなかった。一方,PCPに芳香環スペーサーを介してチオウレイド基を導入したC2対称酸触媒は,Henry反応においてほとんど選択性を示さなかったため,スペーサー上のPCP骨格との結合の隣にメチル基を導入することによる配座制御の影響を調査する計画を立てたが,PCPへのスペーサー導入には成功したものの,チオウレイド基の導入が全く進行しなかった。 2)ピレニルPCP骨格含有サリシルアルジミン配位子の合成と評価:計画していた金属とピレン間のカチオン-π相互作用が可能なサリシルアルジミン配位子の合成には成功した。しかしそれを利用したルイス酸触媒Diels-Alder反応では,ルイス酸触媒の金属に銅やスカンジウムを用いたが,反応速度や配向選択性等において,配位子の効果を確認するには至らなかった。
|