興味深い生物活性を有する不斉有機ハロゲン化合物が自然界に数多く見出され、近年、創薬における活用への期待が高まっている。それゆえ、不斉有機ハロゲン化合物の人工的獲得をもたらす化学合成法の確立が望まれているが、この要求に十分に応え得るものは未だ必ずしも多くはない。我々は、顕著な生物活性を示す天然有機ハロゲン化合物の全合成経路を開拓し、医薬リードを創製するとともに、触媒的不斉ハロゲン化の新手法を開発すべく研究を展開した。 本平成27年度においては、まず、塩素原子によって修飾された特異な化学構造を有する抗生物質napyradiomycin A1の全合成の完了に向けた研究に取り組んだ。すなわち、鍵合成中間体の堅牢な供給路を確立した昨年度に続き、本年度新たに、不飽和側鎖の導入に関する条件検討を進め、目的とする天然物の全合成経路を確立することに成功した。また、シンコナアルカロイド型触媒とWillgerodt反応剤(PhICl2)によるアルケン類の不斉ジクロル化手法の開発も併せて進め、ピリダジンで架橋したC2対称性触媒が低い光学純度ながらジクロリドを与えることを見出した。さらに、Nicolaouらの反応条件下、ホモアリルアルコール類の不斉ジクロル化を試みたところ、クロロエーテルの生成を伴ったものの、対応するジクロリドが低光学純度ながら生成することが明らかとなった。以上の研究を通じて得た新知見は、生物活性天然有機ハロゲン化合物の合成戦略とハロゲン置換不斉炭素の構築法の更なる発展に寄与することが期待される。
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