研究課題
MRSAは代表的な薬剤耐性菌であり、その蔓延は近年深刻な社会問題の一つとなっている。そのような背景の中、北里生命科学研究所においてβ-ラクタム剤耐性機構を標的とした新規阻害剤の探索が行われ、放線菌Streptomyces sp. KB3346-5の培養液より全17種の新規化合物 Naphtacemycinが単離された。これらの化合物群の構造的特徴としては、全てA、B、C、D環からなるナフタセン骨格を有し、更にD環にビアリール結合でE環が連結した構造を有している。本研究ではこれら化合物群の全合成ルートを確立し、さらにその合成手法を利用して天然物より優れた化合物を創製を目的としている。平成25年度はNaphtacemycinA9を標的にデッツ反応を利用した環構築により得られた合成中間体からフリーデルクラフツタイプの環化反応を行うことで4環の連続構造の構築検討をおこなった。まず、モデル基質を用いてナフタセン骨格の構築を試み、4-Bromoanisole(D環部)を出発原料にデッツ反応によりキノン部分(C環部)を構築し、このナフタレン骨格に対し鈴木-宮浦反応を利用することでベンジル骨格(A環部)を導入した。さらに、種々検討の結果、本基質にプロトン酸存在下でフリーデルクラフツタイプの環化反応を行うことB環部を形成することででナフタセン骨格の構築法を確立した。現在、本モデル基質で確立した条件を元に、実際の天然物NaphtacemycinA9の全合成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ナフタセマイシン類の構造特徴としては4環性のテトラセン骨格(A-D環)にビアリール結合でE環部が連結し、D-E環部に軸不斉を持っている。更にB,C環を中心に面性不斉を示すことが強く示唆されている。また、テトラセン骨格は非芳香環部であるB環の両側に芳香環が配置されており、高度に酸素官能基化されている。創薬研究への展開において活性化合物の安定供給を考慮するとナフタセマイシン類に特徴的なテトラセン部分の柔軟性に富んだ骨格構築法が不可欠である。平成25年度ではその基本骨格となるABCD環(テトラセン骨格)を、キー反応となるデッツ反応とフリーデルクラフツタイプの環化反応を利用することで効率的に構築することに成功した。全合成ルートの確立において、その基本骨格となるテトラセン骨格の構築が達成されたことは、大きなアドバンテージを得たことになる。以上の結果より、本年度の達成感として「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
今後は25年度に確立したテトラセン構築法を用いて、標的分子である天然物NaphtacemycinA9の全合成を達成するとともに、その全合成を不斉全合成へ発展させ絶対立体構造を決定したい。さらに耐性菌の耐性因子に対する阻害活性を評価し、天然物を超える誘導体を創製を目的にする。すなわち基本骨格となるABCD環(ナフタセン骨格)にアリール結合形成によりE環を導入することでその全合成を確立する。その後、ビアリール結合の軸不斉を選択的に構築できる手法を確立し、X線結晶解析などを利用して、天然物の絶対立体構造を決定する。そして多種多様な誘導体群の調製へと展開していく。
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