研究概要 |
皮膚では、1,7-デヒドロコレステロールへの太陽光照射によりプレビタミンD3が生成するが、同時にプレビタミンD3への太陽光照射で「タキステロール」が副生する。「タキステロール」は、ビタミンDの光異性化体である。空気中室温において不安定なトリエン骨格のため、これまで研究対象として困難とされてきた「タキステロール」について、我々は同条件下、比較的取扱い容易な新規トリエン骨格14-エピ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロール(1)を見出した。ヒトビタミンD受容体(hVDR)とのX線共結晶構造解析を行ったところ、活性型ビタミンD3とは異なるトリエン部分の結合様式となる5,6-s-transかつ7,8-s-trans配置を認めた(Sawada et al. J. Am. Chem. Soc., 2011)。hVDRのリガンド結合領域に柔軟性がある結果であり、本研究課題では、この新規化合物1について、14-エピ-1α,25-ジヒドロキシタキステロール(2)の誘導体を含め、効率良く合成する方法を開発し、作用メカニズムとともに活性型ビタミンD3よりも強い骨形成作用を有する誘導体(骨粗鬆症治療薬)を取得する目的で取組んだ。前年度までの構造修飾研究から、1)19位のメチル基をもたない1の方が、より天然に近い構造を有する19位にメチル基をもつタキステロール型(2)よりもhVDRへの結合能力が高いこと、2)活性型ビタミンD3ではhVDR結合親和性をはじめとする生物活性向上に有効であった2-ヒドロキシプロポキシ基の導入が、14-エピ-19-ノルタキステロールではhVDR結合減弱など不利に働くことが判明した。このことは1と活性型ビタミンD3とのhVDRへの結合様式の違いからくる結果と推察された。今年度はさらに、14-エピ-8,9-ジヒドロ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロール(3)の合成に成功し、hVDR結合親和性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、14-エピ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロール(1)のhVDR結合時に認められる7,8-s-trans配置の優先性を解除し、本来の活性型ビタミンD3の結合配置でhVDRに結合し得るタキテロール誘導体として、8-9位間の二重結合を水素化した、新規な14-エピ-8,9-ジヒドロ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロール(3)の合成に成功した。すなわち、14-エピ-CD環の8-ケト体(ステロイドの位置番号)からエキソメチレン化、ヒドロホウ素化-酸化を経て8位の第一級アルコールとし、光延反応と続く酸化で7位スルホン体を得た。シクロヘキサ-1-エンカルバルデヒド誘導体とのJuliaカップリングを行い、続く脱保護により、目的とする3を得ることができた。適切な生物活性評価のために、HPLCにて最終精製をした。 hVDRへの結合親和性を評価すると、8位がsp3炭素となった新規誘導体3の場合は、親和性が極端に低下することがわかった。しかしながら、新規hVDRリガンド3は、10-6 MでhVDR結合親和性が活性型ビタミンD3の50%程度を示し、この値は、ヒト血中では最も高濃度で存在する25-ヒドロキシビタミンD3と比較し得るhVDR結合親和性を示す結果となった。8位sp3炭素のhVDRへの結合時最適化を探る手がかりとなる。 以上のように、本年度は計画通り、ビタミンD関連化合物として全く新しいタキステロール誘導体3の合成に成功し、ビタミンD受容体への結合親和性を評価することができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、シクロヘキセン誘導体に対するジアゾメタンの1,3-双極子付加環化と続くピラゾリンの熱分解反応により、19位に本来のメチル基を有する14-エピ-1α,25-ジヒドロキシタキステロール(2)の合成法を開発出来たので、今年度の19-ノル体(3)についてもA環部に19-メチル基を有する天然型の誘導体を合成し、生物活性を評価する。また、2位置換体が昨年度と同様に合成できる。また、今後はA環部4-5位間の二重結合を水素化し、新規な14-エピ-4,5-ジヒドロ-1α,25-ジヒドロキシ-19-ノルタキステロール(4)の合成に着手し、5,6-s-trans配置の優先性を解除し、本来の活性型ビタミンD3の結合配置でhVDRに結合し得るタキステロール誘導体を現実のものとする。さらにA環部には19-メチル基を有する天然型の誘導体を合成し、これでタキステロールの8,9-ジヒドロ体、その19-ノル版、4,5-ジヒドロ体、その19-ノル版と全部で4種類の新規hVDRリガンドが揃う。ヒトビタミンD受容体(hVDR)のリガンド結合領域の柔軟性を活かし、活性型ビタミンD3とは異なるs-trans配置で結合する一連の14-エピ-タキステロール類を合成し、CYP24A1に対する代謝安定性と、骨粗鬆症モデルOVXマウスを用い骨密度改善と骨形成に対する効果を調べ、in vivoデータを取得する。また、hVDR-新規誘導体複合体のX線共結晶構造解析を行い、結合様式と生理活性発現機構を精査する。 また、制癌作用についても海外研究協力者とともに調べていく計画である(本年度のビタミンD誘導体における制癌活性に関する共同研究成果:K.-C. Chiang et al. Cell Cycle 2013, 12 (8), 1316-1325. K.-C. Chiang et al. J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2014, 139 (1), 54-60. K.-C. Chiang et al. J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2013, 138 (11), 427-434.)。
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