本研究は、陽極酸化反応において基質の一電子移動過程を媒介することが知られている芳香族第三級アミンや芳香族スルフィドにキラルなビアリール構造等を導入することにより「一電子移動型不斉有機触媒」を開発することを主たる目的として実施するものである。この目的を達成するためには、「一電子移動型不斉有機触媒」の適切な分子設計・構築に加え、電気化学的手法以外の電子移動のツールについての検討も必要がある。そこで、ビアリールをもつ不斉芳香族第三級アミンの構築、特に、スピロ構造により剛直化された軸不斉をもつビアリール型不斉芳香族第三級アミンの構築とその「一電子移動型不斉有機触媒」としての可能性を検討した。また、電気化学的手法以外の電子移動のツールとしてIr(bpy)3などの可視光型光増感剤を用いた光電子移動の可能性について検討した。さらに、関連の事項として、光増感剤の基盤分子としての有用性が期待されるポルフィリン化合物の新規修飾反応の開発を試みた。得られた知見の概略を以下に記す。(1)スピロビアリール型不斉芳香族第三級アミンを「一電子移動型不斉有機触媒」として用い、ナフチルヒドラゾンを陽極酸化またはIr(bpy)3などの可視光型光増感剤を用いて一電子酸化すると対応するビナフチルアミンを不斉収率が20%程度で与えることを見出した。(2)環周辺にエステルなどの反応性官能基をもつ無金属ポルフィリンは様々な機能性金属ポルフィリン分子の合成素子としての有用性が来される分子であるが、従来、このようなポルフィリン化合物を短工程で効率良く合成する方法は殆ど知られていなかった。これに対して、Pd触媒存在下ハロゲン化ポルフィリンとKnochelらにより開発された官能基許容性有機マグネシウム反応剤とのカップリング反応を行うと目的の反応性官能基をもつ無金属ポルフィリンが高収率で得られることを見出した。
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