研究実績の概要 |
26年度研究成果: 「意義・重要性」 腎臓病の末期である透析患者数は増加の一途をたどる。透析患者は導入後一生にわたって隔日の透析治療を受けるが、長期治療の中で種々の合併症が予後を脅かしている。我々は25年度に透析患者の病態把握の基礎技術として透析廃液と血漿を用いて代謝物のNMR定量法を確立した。これを応用して透析患者の病態ひいては腎臓病病態の本質をとらえるための新規解析を行う。 「内容」 透析治療4時間のうち15, 30分,1, 2, 3, 4時間の時点での廃液を採取し1HNMR測定を行い、各スペクトル上で代謝物の定量を行った。代謝物濃度の時間変化をみるとクレアチニンは他の尿毒素と同じく単調に減少するが、乳酸、ピルビン酸、アラニンは2,3時間くらいで増加することがわかった。この増加は体内からの産生を意味するが、生体ホメオスタシスを保つ反応と考えられる。これらの時間変化パターンは患者個人に特異的なものであり複数回の透析治療で再現することを発見した。ことに原疾患によって大きく異なる応答をすることなど医学的な新しい知見を得た。 上記代謝物はエネルギー産生にかかわるので、透析治療は患者のエネルギー代謝に大きな負荷を与えたことを示した。エネルギー代謝異常をもつ糖尿病者においては、糖尿病を持たない患者と大きく異なる様子を示す予備的な知見を得た。これらは増加しつつある糖尿病透析患者の病態の解析に役立つものと推測される。 また昨年我々は、透析合併症である痙攣の緩和を目的としたビオチンを投与実験と血中ビオチン測定を行った。ビオチンはTCA回路の補酵素であり、エネルギー代謝の負荷を是正する役割があると考えた。今年はLC/MS測定を確立したことで活性ビオチンを区別して定量することが可能となり、透析患者は活性型だけでなくビオチン代謝物も蓄積している事を明らかにした。
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