研究課題/領域番号 |
24590050
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
木下 恵美子 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 助教 (40379912)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リン酸基親和性電気泳動法 / 亜鉛フォスタグ / タンパク質 / 分析化学 / リン酸化シグナル |
研究概要 |
本研究では,申請者らが開発したリン酸基親和性電気泳動法、フォスタグSDS-PAGEの原理を基盤とし,高分子から低分子にわたる広い分子量範囲のタンパク質のリン酸化状態を解析できる技術の開発を目的とする。申請者らは、2011年にフォスタグのリン酸基捕捉能力が最大となる中性pHで泳動ができるBis-Tris-HCl (pH6.8)をゲルバッファーとした「中性フォスタグSDS-PAGE」を開発した。これは従来のアルカリ性条件下のフォスタグSDS-PAGEよりも高い分離能を持つ改良法である。しかし、3級アミンであるBis-Tris はアクリルアミドのラジカル重合反応において,過硫酸アンモニウムの存在下でラジカルとなり,アクリルアミドの重合反応を終止させる。この影響は、高分子量タンパク質解析用の低濃度のゲル重合において顕著になり、200 kDa を超える高分子タンパク質のリン酸化解析は不可能だった。そこで、当該年度は、Bis-Tris以外のゲルバッファーを選定し、この問題の解決を図った。その結果、Tris-HCl (pH 7.0)あるいはTris-acetate (pH7.0)をゲルバッファーとして適用することによって、Bis-Trisゲルと同等の分離能を持ちながら、低濃度ゲルを用いた高分子量タンパク質のリン酸化解析を実現した。また、同じ中性条件でも、各バッファー使用時のタンパク質リン酸化状態の分離パターンが異なる例があることを明らかにした。一例として細胞内シグナル伝達分子であるErk1/2がある。また、和光純薬工業株式会社から2012年12月に発売されたプレキャスト中性フォスタグSDS-PAGEゲル「SuperSep Phos-tag」において、比較的低分子量のタンパク質であるヒストンH3 (15 kDa)や10 kDa以下のペプチドのリン酸化状態の解析に有効であることを発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Bis-Trisゲル緩衝液に替わるゲル緩衝液と泳動用緩衝液を選定し,高分子量タンパク質のリン酸化解析もできる中性フォスタグSDS-PAGEに適したゲル緩衝液を決定するという目的は達成できた.本研究では, 1級,2級アミンで,緩衝液として使用するのに見合うコストで入手できるものを選定して検討したが,Tris-HCl (pH 7.0)あるいはTris-acetate (pH7.0)をゲルバッファーとして適用したことは,汎用性も,コストの面でも適しているものである.また,Bis-Trisゲルと比較して分離能が劣らないことも重要な結果である.また,これらのゲルで泳動する際の泳動用緩衝液に関しても,汎用性の高いTris-tricineバッファーを適用することができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に新たに決定したフォスタグSDS-PAGE のゲル緩衝液と泳動用緩衝液の条件を用いて,1枚のゲルで数kDaから数百 kDaの分子量範囲のタンパク質のリン酸化状態の違いを分離できる濃度勾配フォスタグゲルの開発を行う。一般的な濃度勾配ゲルはアクリルアミドと架橋剤のビスアクリルアミドの総濃度を変化させるが,フォスタグゲルでは,総ゲル濃度,ゲル架橋剤濃度,フォスタグ濃度など複数のファクターを変化させることを検討する。それによって,どの分子量範囲においても,リン酸化型/非リン酸化型のタンパク質を明瞭な分離度で検出できる条件を決定する。この段階では次のような事が検討事項となる。1. ポリアクリルアミドの濃度勾配の範囲と解析可能な分子量範囲の関係 2.ポリアクリルアミドの直線的濃度勾配の場合と,曲線的濃度勾配の場合の差異 3.ゲル架橋度の濃度勾配(高分子量の分析範囲になるほど架橋度を低くするなど)4.フォスタグの濃度勾配(高分子量タンパク質ほど低濃度のフォスタグが適するというデータがある)5. ゲルの長さと分析能の関係。 分析能の評価は,24年度の計画で述べた通り,複数の細胞内タンパク質を試料として行う。SDS-PAGEでは高分子量ほど移動度が小さく,同一タンパク質のリン酸化フォームの分離度も悪くなることが考えられる。ポリアクリルアミドがゲル形状を保つには3%が最低限度濃度だが,他の支持体を混ぜてゲル強度を高めた1-3%ゲルで高分子領域に対応することを検討する。0.5-1%でタンパク質に対する分子篩い効果を持たず,かつ操作上十分な強度を持つアガロースゲルなどを支持体の候補として考えている。 さらに,開発したフォスタグゲルを用いて細胞内シグナル伝達に関わる様々な分子量を持つ様々なタンパク質の関わりとリン酸化反応について,解析することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
今後は,開発したゲルを用いて,様々なタンパク質のリン酸か解析を実際に行っていくため,H24年度よりも生化学的,細胞生物学的手法を多く用いることになる.したがって,主に抗体や酵素類などの生化学研究用試薬,細胞培養関連試薬と器具などの購入に使用させていただきたい.さらに,H24年度と同様に,プラスチック汎用品,有機溶媒,電気泳動関連試薬と器具などの購入にも使用させていただきたい.また,研究成果の学会発表,そのための試料制作費にも使用させていただきたい.
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