研究課題
本研究では、筆者らが開発したリン酸基親和性電気泳動法、フォスタグSDS-PAGEの原理を基盤とし、高分子から低分子にわたる広い分子量範囲のタンパク質のリン酸化状態を解析できる技術の開発を目的とする.前年度は、Bis-Tris以外のゲルバッファーとして,Tris-HCl (pH 7.0 )あるいはTris-acetate (pH7.0)をゲルバッファーとして適用することによって、Bis-Trisでは不可能だった100-350kDaの高分子量タンパク質のリン酸化解析も可能にした。当該年度においては、Bis-tris-HClゲルと、Tris-HClあるいはTris-acetateゲルのリン酸化タンパク質分離能に本当に差異がないのかどうかを検討した.市販されている標品タンパク質のリン酸化型、脱リン酸化型の移動度だけを比較するのではなく、様々な細胞内タンパク質の抗体を用いて、広い分子量範囲において、調べた結果、10~200 kDaの多くのタンパク質において、Bis-Tris-HClゲルのほうが分離能が優れていることがわかった.このことから、Tris-HClあるいはTris-acetateゲルは、Bis-Tris-HClゲルでは不可能な高分子領域の解析に有効ではあるが、200kDa以下では、Bis-Tris-HClゲルの使用を推奨することにした.さらに、中性で行うフォスタグSDS-PAGE は、多くのタンパク質のリン酸化解析において、アルカリ性で行うSDS-PAGEよりも有効であるとしていたが、アルカリ性条件でしか分離が不可能なタンパク質が存在することを発見した(業績文献5).それは、バクテリアのヒスチジンキナーゼのEvgS, ArcB, BarAなど、ハイブリッドヒスチジンキナーゼと呼ばれるタンパク質のヒスチジンがリン酸化したものに特異的な現象であった.
2: おおむね順調に進展している
Bis-tris-HClゲルと、Tris-HClあるいはTris-acetateゲルのリン酸化タンパク質分離能に本当に差異がないのかどうかを、詳細に検討することで、10~200 kDaの多くのタンパク質において、Bis-Tris-HClゲルのほうが分離能が優れていることがわかった.このことから、200kDa以下では、Bis-Tris-HClゲルの使用を推奨することにしたが、多くのゲルバッファーを提案した場合に、目的に合わせて何を選べばよいのかという指針を作ったことに意義がある.また、改良型として発表した中性フォスタグSDS-PAGE では解析が不可能でも、従来法のフォスタグSDS-PAGE で解析可能なタンパク質を発見して、それを論文として発表できたことにも意義がある.
前年度と当該年度において、Tris-HClあるいはTris-acetateゲルを開発したのであるが、これまでの予定では、これを用いて数kDaから数百kDaまでのタンパク質のリン酸化を一網打尽に分析することを目指していた.しかしながら、10~200 kDaの多くのタンパク質において、Bis-Tris-HClゲルのほうが分離能が優れていることがわかったので、200 kDaを境界に、ゲルを使い分ける必要がある.この場合、煩雑な濃度勾配ゲル作成の操作を経て広範囲の分子量を網羅できるゲルを作成しなくても、ゲルを使い分けることによって様々な分子量領域のタンパク質を解析することができるので、早急に複数の細胞内タンパク質の同一ゲルによる同時解析の実施例を出していきたい.今後、さらに多くの様々なタンパク質のリン酸化解析を実際に行っていくため生化学的、細胞生物学的 手法を多く用いることになる。したがって前年度に引き続き、主に抗体や酵素類などの生化学研究用試薬,細胞培養関連試薬と器具などの購入に使用させていただきたい.さらに、H24年度と同様にプラスチック汎用品、有機溶媒、電気泳動関連試薬と器具などの購入にも使用させていただきたい.また、研究成果の学会発表、そのための試料制作費にも使用させていただきたい.
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http://home.hiroshima-u.ac.jp/tkoike/index.html