研究課題/領域番号 |
24590052
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大和 真由実 九州大学, 先端融合医療レドックスナビ研究拠点, 准教授 (30380695)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | レドックス制御 / 酸化ストレス / 肥満 / エネルギー代謝 |
研究概要 |
肥満症は、エネルギー代謝恒常性が正方向に破綻した状態であり、糖尿病、虚血性心疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患発症のリスクファクターとなることが指摘されている。そのため、エネルギー代謝調節の研究は、肥満症のみならず、それを基盤とした様々な生活習慣病の病態メカニズムを解明するためにも重要である。 「NAD+/NADH」は、代謝過程において最も重要な酸化還元反応を担うレドックスペアであり、代謝反応における酵素の基質となるばかりでなく、重要な調節因子として機能する。例えば、NAD+ 依存性アセチル化酵素であるSirt1は、核・細胞質に局在し、糖新生、脂肪酸酸化、コレステロール制御など、複数の組織における代謝状態の制御に対し重要な役割を担っている。一方で、NAD+/NADH比の低下、すなわちNADHが過剰になると、NAD(P)Hオキシダーゼ由来のフリーラジカル生成や、ミトコンドリア障害を介した酸化ストレスが誘発される。 以上の事実から、「NAD+/NADH」は、肥満症におけるエネルギー代謝調節ならびに酸化ストレスの両方に重要な役割を担う分子であり、NAD+/NADH比を自在に操ることができれば、肥満症治療に有用な情報を与えるものと予想される。そこで本研究では、ニトロキシルラジカル(Tempol)の化学的性質、すなわちレドックス特性を肥満モデル動物に適応し、酸化ストレスに対する効果、及びレドックス制御による代謝調節機構について明らかにすることとした。 今年は、① 培養細胞系を用いたTempolのNADH酸化機構について、② 肥満症モデルマウスにおけるTempol飲水の効果(肥満症改善、レドックス変動等)について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下にH24年度に行った実験結果を示す。 (1) Tempolと活性酸素との反応、あるいはTempolとアスコルビン酸との反応を介したNADHから NAD+への変換は、in vitro実験や培養細胞系において確認された。 (2) 高脂肪食摂取マウスは、体重や体脂肪の増加、耐糖能異常等の劇的な変化を示した。9週間後から、通常食に切り替えTempol飲水を併用したところ、食事改善のみを行った群より顕著な体重減少が認められた。この治療群では、体脂肪率、耐糖能、および血中コレステロール値の有意な改善を示した。また、Tempol飲水により、肝臓中のNAD+/NADH比が増加し、肝臓中トリグリセリドは減少した。肝臓中では、酸化ストレスの指標(dihydroethidiumの蛍光強度、TBARS蓄積)の変化が認められなかったが、血漿中では、これらの変化が認められた。また、Tempolによるレドックス反応に重要なアスコルビン酸の上昇が、肝臓中で認められた。以上のことから、Tempolは、肥満マウス血漿中では抗酸化作用、肝臓中ではレドックス制御による代謝亢進作用を発揮することが示唆された。 (3) Tironを抗酸化作用のコントロール実験に用いたところ、代謝改善は示さなかった。この結果は、抗酸化作用のみでは、代謝改善しないことを示唆していると思われる。また、肥満継続群においては、4週間投与では体重減少は認められなかった。この原因の一つとして、NAD+/NADHの総量の減少が確認された。 25年度以降に計画していたTironを用いた研究、高脂肪食継続群についての検討も合わせて今年度に終了することが出来た。また、Tempolのレドックス反応に重要なアスコルビン酸の測定系を確立し、論文発表を行った。よって、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた「通常食治療群に対するTiron飲水の効果」ならびに「高脂肪食摂取継続群に対するTEMPOL飲水の効果」について検討は、H24年度中にほぼ終了した。従って、今年度は、NAD+/NADH比を制御することにより代謝状態を改善させるTempol以外の化合物の探索を行う。 具体的には、合成ニトロキシルラジカルを中心に様々な化合物を用いて、レドックス変化が代謝調節に与える影響を解析する(in vitro実験系、培養細胞系)。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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