肥満症は、エネルギー代謝恒常性が正方向に破綻した状態であり、糖尿病、虚血性心疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患発症のリスクファクターとなる。そのため、エネルギー代謝調節の研究は、肥満症のみならず、様々な生活習慣病の病態メカニズムを解明するためにも重要である。 「NAD+/NADH」は、代謝過程において重要な酸化還元反応を担うレドックスペアであり、代謝反応における酵素の基質となるばかりでなく、重要な調節因子として機能する。例えば、NAD+ 依存性アセチル化酵素であるSirt1は、核・細胞質に局在し、糖新生、脂肪酸酸化、コレステロール制御など、複数の組織における代謝状態の制御に対し重要な役割を担っている。一方で、NAD+/NADH比の低下、すなわちNADHが過剰になると、NAD(P)Hオキシダーゼ由来のフリーラジカル生成や、ミトコンドリア障害を介した酸化ストレスが誘発される。 以上の事実から、「NAD+/NADH」は、肥満症におけるエネルギー代謝調節ならびに酸化ストレスの両方に重要な役割を担う分子であり、NAD+/NADH比を自在に操ることができれば、肥満症治療に有用な情報を与えるものと予想される。そこで本研究では、ニトロキシルラジカル(Tempol)の化学的性質、すなわちレドックス特性を肥満モデル動物に適応し、酸化ストレスに対する効果、及びレドックス制御による代謝調節機構について明らかにすることとした。 今年度は、「エピジェネティック代謝制御に対するTempolの効果」について検討を行った。細胞内のエネルギー代謝状態がNAD+に反映され、Sirt1をメディエーターとして高度に制御された栄養応答システムが活性化されることが知られているが、Tempol処置はその活性化に対し影響を及ぼさなかった。したがって、レドックスを制御することにより直接的に肥満状態を改善していることが明らかとなった。
|