研究課題/領域番号 |
24590053
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
西田 孝洋 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20237704)
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キーワード | DDS / 吸収 / コントロールドリリース / がん |
研究概要 |
我々は、病巣部位近傍に選択的な薬物集積を可能にする新規投与形態として、昨年度には、5-FUを封入した均一な形状の徐放化に優れたシート製剤を、再現性良く作製できる実験条件を確立できた。しかしながら、初期の薬物放出速度(初期バースト)が大きいため、初期バーストを抑制できるシート製剤の最適な製剤処方を検討したところ、poly (lactic-co-glycolic acid) (PLGA)、hydroxypropyl cellulose (HPC)の混合比などの作製条件を最適化し、初期バーストの抑制に成功した。また、in vivo腹腔内においてシート製剤から放出される抗癌薬による毒性が懸念されるため、シート製剤にPLGAシートを重ね合わせた、片面(臓器表面への装着面)のみから薬物放出される二層型シート製剤の作製を試みた。従来のPLGAとHPCを含有するシート製剤に、PLGAのみのシートを重ね合わせて二層型シート製剤を作製できた。二層型シート製剤は、in vitro評価においてPLGAシート側からの5-FUの放出を顕著に抑制した。その結果、肝臓の投与部位以外の葉や腹腔内の他臓器への障害性、全身循環への移行性を減少できる可能性が期待された。一方、ラットin vivo評価において、二層型シート製剤は28日後も肝臓表面に滞留した。さらに、肝機能診断薬(AST, ALT測定キット)や我々が新たに開発した高分子マーカーを用いる手法による毒性評価では、二層型シート製剤の毒性は認められなかった。次の段階として、ラット腹腔内での二層型シート製剤を肝臓表面に適用後の5-FUの肝臓内動態を予備的に調べたところ、封入している5-FUの肝臓内動態を最適化するために、代謝阻害剤や吸収促進剤を二層型シート製剤に含有させる必要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の大きな目的である、腹腔内において片面(臓器表面への装着面)のみから薬物放出される二層型シート製剤の作製とその毒性評価、さらにラット腹腔内での二層型シート製剤自体の滞留性の検討については達成できた。しかしながら、二層型シート製剤の形成に最適な高分子添加剤の混合比などの条件設定を導くために、当初予定していた以上の時間を費やした。大きな理由としては、二層型シート製剤の放出性を検証するためには、in vitroにおける1ヶ月間の放出性を調べる必要があるためである。したがって、ラット腹腔内での二層型シート製剤から放出される抗がん薬の肝臓内動態を調べるまでの段階までは至らず、予備的な検討にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
腹腔内において片面(臓器表面への装着面)のみから薬物放出される抗がん薬を封入した二層型シート製剤を今年度作製した。腹腔内での滞留性に優れ、有意な毒性が見られなかったことから、次の段階として、ラット腹腔内での二層型シート製剤から放出される抗がん薬の肝臓内動態を系統的に検討していく。今後の治療実験を考慮して、マウスの肝臓へ適用可能な二層型シート製剤を作製し、マウスにおける抗がん薬の肝臓内動態も検討する。さらに、抗がん薬の肝臓内動態を最適化する必要性が見込まれるため、二層型シート製剤に含有させる代謝阻害剤や吸収促進剤の選定を進める。さらに、肝癌モデル動物における二層型シート製剤の有効性を評価する準備を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
二層型シート製剤を作製するために、昨年度最適化した一層型シート製剤で用いたPLGAとHPC以外の高分子添加剤を選定する計画を当初していた。しかし、二層型シート製剤の最適化には、想定以上の時間は要したものの、PLGAとHPCで、腹腔内での滞留性に優れ、有意な毒性が見られない二層型シート製剤を作製できた。したがって、当初見込んでいた高分子添加剤の購入金額に差額が生じた。また、二層型シート製剤のラットにおける毒性評価において、致命的な毒性が認められなかったため、実験動物の購入金額にもやや差額が出た。 肝臓表面適用二層型シート製剤の作製のための抗癌薬(5-FU)、高分子添加剤(PLGA, HPC)、代謝阻害剤や吸収促進剤、および肝機能診断薬(AST, ALT測定キット)などの薬品類を購入する。その他、抗がん薬などの定量測定用のガラス・プラスチック器具の購入を予定している。一方、肝臓表面適用二層型シート製剤の大部分の評価をin vivo系で行うこと、実験的がん病態モデル動物を作製することから、実験用動物(ラット、マウス)の購入に多額の経費を見込んでいる。さらに、DDS、薬物動態、薬物治療に関する学会に参加し、製剤設計やがん化学療法に関する最新の研究成果の情報収集および成果発表のための旅費を見込んでいる。
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