研究課題/領域番号 |
24590054
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
奥田 健介 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00311796)
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研究分担者 |
永澤 秀子 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (90207994)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / 分析科学 / 低酸素 / インビボ / イメージング / 化学発光 / 高感度 / 非侵襲性 |
研究概要 |
低酸素がん組織は、浸潤・転移、血管新生などの癌の悪性化や再発の要因であり、がん治療上重要な標的であることが古くより示されてきている。近年、この低酸素がん組織を生きた状態で可視化するインビボ・イメージングの手法が近赤外領域の蛍光イメージング法を中心として大いに発展してきており、低酸素がんの研究の上で大きな役割を果たしてきた。蛍光イメージングは特異性、選択性、および分析の簡便性においてそれぞれ比較的優れた特性を有しているものの、その感度は既存の先行技術である放射性(RI)プローブに劣り、RIに匹敵する実用化レベルに達するのは難しい。そのため、蛍光法の欠点を補う測定原理に基づく検出法の開発が求められている。 本研究は、化学発光イメージング法の特性を生かして低酸素がんを高感度に検出する新規がん診断薬の開発を行うものである。化学発光は安価かつ簡便な装置で検出でき、蛍光法を凌ぐ高感度性と良好な時空間分解能を有する。そこで、低酸素領域特異的な化学発光により、in vivoイメージングに適したユニークな分子プローブの創製を目指す。具体的には、計算化学にもとづく論理的分子設計、汎用性の高い反応を駆使した効率的合成、in vitro解析による低酸素特異性の評価、in vivoイメージングによる体内動態と機能評価を行っている。 本年度においては、低酸素環境下で種々の還元代謝反応が進行することに着目し、この代謝により引き起こされる脱保護反応により化学発光が生じると予想される3,5,6-trimethylquinone基を有する1,2-dioxetane誘導体の合成を達成した。nitroreductaseを用いたスクリーニング系により検討した所、酵素非存在下での対照実験と比較して有意な化学発光の増強が観測され、本化合物がnitroreductaseの基質として働いて化学発光を生じたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,2-dioxetane誘導体が分解することにより化学発光を生じることは古くから知られており、本誘導体を活用する化学発光プローブの設計指針はすでに確立されていると言える。しかしながら、設計した1,2-dioxetane誘導体が所望の酵素反応の基質として働くか否か、ひいては分解を伴う化学発光を生じるか否かを予測することは困難であり、実際に合成して確認するまで分からない。本研究では、cytochrome P450 reductase等により低酸素環境下特異的に種々の還元反応が進行することに着目して、その一つであるニトロ芳香環の還元により進行する脱保護反応の結果、1,2-dioxetane誘導体が分解して化学発光を生じると期待される誘導体をまず設計・合成した。しかしながらnitroreductaseを用いたスクリーニング系により検討した所、本化合物はnitroreductaseに基質として認識されづらいことがわかった。この原因として、かさ高いアダマンチル基を有することによる立体障害のために本化合物は酵素における基質認識部位に取り込まれないのではないかと考えられた。そこでこの基質認識部位をlinkerを介してアダマンチル基から遠ざけることにより本酵素の基質として働くのではないかと予測し、かつ酵素反応を加速する目的のもと、還元電位をより正にシフトすべくnitrophenyl基をtrimethylquinone基へと変換した化合物を設計・合成し、再度評価を行ったところ、酵素非存在下での対照実験と比較して有意な化学発光の増強が観測され、本化合物が確かにnitroreductaseの基質として働いたことが示唆された。以上の検討結果より、本年度においては低酸素をイメージングする第一世代の化学発光プローブのプロトタイプの開発に成功しており、おおむね計画通りであると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.第一世代の化学発光プローブのin vitro評価および構造活性相関 今年度においては、先に見出した化学発光プローブ誘導体を各種培養細胞(A549など)に適応して、in vitroの系において低酸素条件下で選択的に活性化されることによってはじめて発光することに関する評価を行う。次いで細胞毒性(MTT assayおよびchronogenic assay)を検討し、本プローブの妥当性を評価する。細胞毒性が認められた場合には、アダマンタン部位に適宜誘導化を行うことによって化学発光プローブとしての性質は保ちながらも細胞毒性の弱い化合物への導出を行う。 2.化学発光量子収率の向上を目指した第二世代の化学発光プローブの設計・合成およびin vitro評価 合成の利便性を考えてまず達成した第一世代の化学発光プローブではあるが、水中での化学発光量子収率がきわめて低いという欠点を有しており、in vivoでの実用的なプローブとして活用するためには問題が多い。一方、1,2-dioxetane誘導体の持つphenyl部位にbenzthiazol-2-yl基を導入することにより水中での化学発光量子収率が10,000倍に向上することがすでに知られている。そこで本知見に基づき、選抜された第一世代化学発光プローブにbenzthiazol-2-yl基を導入した化合物の設計・合成を行う。ついで、nitroreductaseを用いたスクリーニング系により検討を行い、化学発光プローブとして評価し、さらに構造活性相関の検討を行う。抽出された化合物に対し、体内動態の重要なファクターである構造活性相関パラメータの解析も行い、in vivoでの化学発光イメージングプローブの分子設計に反映させる。 以上の2点を次年度で検討し、再来年度においてはin vivo評価ならびに総括を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に引き続き、候補化合物の合成とnitroreductaseを用いた一次スクリーニング実験に関わる試薬、ガラス・プラスチック器具を必要とする。さらに次年度においては合成したプローブの二次スクリーニングならびに機能解析としてin vitro培養細胞を用いた実験系を予定しており、それぞれ低酸素ガスをはじめ培地、試薬、ガラス・プラスチック器具、などの経費が必要である。さらに、日本薬学会年会(2014年3月、熊本)における成果発表のための国内旅費、および原著論文としての発表に要する学会誌投稿料を経費として用いることを計画している。
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