経皮吸収は死んだ細胞の層である角層が主に透過バリアとなるため、経角層ルートを介した薬物の吸収速度は他の粘膜と比べて極めて低い。一方で、薬物の毛嚢を介した吸収性は経角層ルートを介する場合よりも著しく早いことが知られており、毛嚢選択的な薬物デリバリーが可能となれば、新たな経皮薬物透過促進手段になり得る。しかしながら、薬物の毛嚢移行性や毛嚢内動態に関する研究は十分に行われておらず、毛嚢選択的デリバリーを行うためには、これらを明らかにする必要がある。 薬物の皮膚透過に対する毛嚢ルートの寄与率は、薬物の脂溶性および分子量の影響を受けることが分かった。その寄与率は、薬物の油水分配係数の減少とともに増大し、分子量>500 Daもしくは、分子量<500 Daでかつlog Ko/w<0の薬物では、毛嚢の寄与率がほぼ100%となることが明らかとなった。また、脂溶性がlog Ko/w<0の薬物は、短時間で毛嚢内濃度が一定となることが分かり、これらの結果から、毛嚢内選択的デリバリーが可能となれば、新たな経皮薬物透過促進手段となることが分かった。 次に、数ピコリットル単位で吐出量を制御できるピエゾ感圧アプリケーターをデバイスとした薬物の毛嚢内選択デリバリーを行い、投与後の薬物透過性や皮内分布を評価した。ピエゾ感圧アプリケーターによる毛嚢への選択的塗布が可能となり、また、塗布した薬物の皮内移行性は薬物の組織中の拡散性に依存した。さらに、ピエゾ感圧アプリケーターと定電流付加デバイスを併用すると、併用適用わずか5分で溶液のみを皮膚に8時間塗布した時と同程度の皮膚中薬物量が得られた。本研究結果から、物理促進手段フリーな皮膚透過促進技術の開発まで至らなかったものの、ピエゾ感圧アプリケーターと定電流付加デバイスを併用は、微少量薬物を毛嚢ルートを介して皮内送達する有用な手段であることが明らかとなった。
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