研究課題/領域番号 |
24590065
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
土橋 均 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (40596029)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 毛髪分析 / 乱用薬物 / 質量分析 / イメージング |
研究概要 |
本研究課題の目的は、一本の毛髪を用いて、その成長の過程で内部に取り込まれた薬物を可視化することにより、薬物使用履歴を高精度で推定できる「単毛髪質量分析イメージング法」の確立、及び毛髪への薬物の取込み機構の解明である。本課題の実現のためには、毛髪の精密な縦断面試料の作製法の確立 及び イメージング質量分析法の至適化による、高感度で信頼性の高い、顕微鏡的な解像度での毛髪内部の薬物分布の画像化技術の確立が必要である。 毛髪の縦方向スライスについては、剃刀刃を用いて手作業で削ぐ方法、レーザー法及び凍結切片法を比較検討した。総合的に検討した結果、凍結装置とガラスナイフを装備したミクロトームを用い、頭髪(直径40~70 μm程度)を長さ20 mmに渡ってスライスし、精密な縦断面試料を作成する技術を確立し、本操作過程における顕著な薬物の流出は見られず、その保存性は良好であることを確認した。 イメージング質量分析の至適化については、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF-MS)イメージングにおける、マトリックスの選択、塗布条件及び測定条件の最適化を行った結果、毛髪中の比較的低濃度(数μg/mgr)のメトキシフェナミン(MOP)(乱用薬物のモデル化合物)を直接検出可能となった。さらに、MOP摂取者の頭髪試料についてMALDI-TOF-MSイメージングを実施したところ、摂取歴に対応する陽性バンドの検出に成功した。その信憑性を確認するため、フーリエ変換精密質量分析装置によるイメージング及び液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いた在来法による分画分析(毛根側、毛先側のMOPの定性及び定量)を実施したところ、本法による分析に良く一致する結果が得られ、その特異性が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の遂行のためには、(ア)毛髪の精密な縦断面試料の作製法の確立と、(イ)イメージング質量分析法の最適化が必要である。また、頭髪は1カ月に約1 cm成長するとされるが、本法を薬物使用歴の推定に利用するためには、(ウ)薬物摂取者の毛髪中に摂取歴に対応した薬物バンドが検出できるか否かの確認と、(エ)検出できるのであればその特異性(信頼性)及び 同一人から同時に採取した毛髪1本毎のバラツキの検討等が不可欠である。平成24年度においては、(ア)毛髪の縦方向スライスについては、剃刀刃を用いて手作業で削ぐ方法、レーザー法及び凍結切片法を比較検討した。その結果、精密性及び操作性は、レーザー法>凍結切片法>>剃刀刃手作業の順に良好であったが、毛髪内の薬物の保存性は、剃刀刃手作業>凍結切片法>>レーザー法であった。総合的に検討した結果、凍結装置とガラスナイフを装備したミクロトームを用い、頭髪(直径40~70 μm程度)を長さ20 mmに渡ってスライスし、精密な縦断面試料を作成する技術を確立し、薬物の保存性も良好であることを確認した。 (イ)イメージング質量分析法の最適化についても、研究実績の概要に記載の通り、これを達成し、毛髪中の比較的低濃度(数μg/mgr)のメトキシフェナミン(MOP)(乱用薬物のモデル化合物)を直接検出可能となった。さらに、MOP摂取者の頭髪試料のMALDI-TOF-MSイメージング分析を実施したところ、摂取歴に対応する陽性バンドの検出に成功し、その信憑性についても、フーリエ変換精密質量分析及びLC-MS/MSを用いた分析結果と比較することにより、その特異性が確認できた。③及び④については、平成25年度より次項に記載の通りより詳細な検討を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本法を薬物使用歴を高精度で推定する基盤技術として確立するためには、薬物摂取者の毛髪中に摂取歴に対応した薬物バンドが検出されることを確認すると共に、同一人から同時に採取した毛髪(n=10)の1本毎のバラツキ等の基礎検討が不可欠である。これらの検討のため、前年度の結果を踏まえ、平成25年度には、個体数を増やし、MOPの摂取量、回数及び間隔を変化させる等の摂取実験を実施して経時的に毛髪試料を採取し、本法によるイメージング分析を実施し、精密な検討を行う。これにより、単回摂取した場合の毛髪中の陽性バンドの長さや、頭髪の成長につれて、見掛け上、陽性バンドが毛先方向に移動する状況が把握でき、使用歴推定のための基礎データが得られる。また、投与量と毛髪中への蓄積量との関係についても検討し、使用歴の推定を定量的なものとするための基礎データの収集を図る。さらに、平成26年度には、毛髪(角質化した部分)のみならず、毛根部を含めたイメージング分析技術を開発し、毛根部を含めた毛髪内部におけるMOPの分布をより詳細に可視化する技術を確立する。これにより、未だ不明点の多い毛髪への薬物の取込み機構についても考察を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の実験に必要な物品、成果発表及び学会聴講に必要な旅費等は、未使用額を含めて下記の通り使用する予定である。 設備備品・消耗品費 867千円:イメージスキャナー(測定画像取込用)キャノン9000F MarkII 22千円、導電性グラススライド(100枚入り)129×2 258千円、電顕用導電性粘着テープ 10千円、LC-MS用分析カラム(2本)140千円、GC/MS用分析カラム(2本) 160千円、重水素化薬物標準品(3種)9×3 27千円、その他試薬 250千円 旅費 510千円:TIAFT 2013(ポルトガル)400千円、国内学会 日本薬学会(熊本)60千円、打合せ等 50千円 人件費・謝金 50千円:毛髪採取への謝金(5×10人)50千円 その他 100千円:英文校正費(論文、発表)100千円
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