研究課題/領域番号 |
24590065
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
土橋 均 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (40596029)
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キーワード | 毛髪分析 / 乱用薬物 / 質量分析 / イメージング / TOF/TOF |
研究概要 |
本研究課題の目的は、一本の毛髪を用いて、その成長の過程で内部に取り込まれた薬物を可視化することにより、薬物使用履歴を高精度で推定できる「単毛髪質量分析イメージング法」の確立、及び毛髪への薬物の取込み機構の解明である。その実現のために、毛根部を含む単毛髪の縦断面試料の作製法の確立 及び イメージング質量分析法の至適化による特異性と感度の向上を図った。 毛髪の縦方向スライスについては、ミクロトームの試料台や刃の角度等の精密な調節が可能となるように工夫を加えることによって、毛髪(角質化した部分)のみならず、毛根部を含めた縦断面試料が得られる技法を確立した。また、MALDI質量分析イメージングに必要なマトリックスの塗布についても最適な試薬や塗布条件を検討し、効果的で安定した塗布が可能となった。これらにより、試料調製の成功率と実験精度が顕著に向上した。 イメージング質量分析法の特異性と感度の向上については、TOF/TOF法による質量分析イメージングにより、特異性の向上と高感度化が同時に図れ、分析感度は従来の約5倍アップを達成し、単回摂取した薬物についてもイメージング検出が充分可能となった。さらに、毛根部も含めた単毛髪イメージング技術もおおむね確立した。 本法を薬物使用歴を高精度で推定する基盤技術として確立するために、モデル薬物として選定したメトキシフェナミンの摂取量、回数及び間隔を変化させる等の摂取実験を実施して毛髪試料を採取し、本法によるイメージング分析を実施して詳細に検討を行った。その結果、摂取歴に対応した薬物バンドが検出されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、毛根部を含む単毛髪縦断面試料の作製法の確立 及び イメージング質量分析法の特異性と感度の向上が図れたため、試料調製の成功率と実験精度が顕著に向上し、単回摂取した薬物についてもイメージン検出が充分可能となった。また、毛根部も含めた単毛髪イメージングが可能となった。 本法の信頼性を客観的に評価するためには、従来法による分析結果との比較が重要である。そのために必要な、従来法による単毛髪の高感度分画定量分析法の確立も行ったうえ、本法の客観的な評価を行った。 そして、メトキシフェナミンの摂取実験によって得られた頭髪試料を分析することによって、単回摂取した場合の毛髪中の陽性バンドの長さや、頭髪の成長につれて見掛け上、陽性バンドが毛先方向に移動する状況の可視化にも始めて成功し、使用歴推定のための基礎データが得られた。 上記の通り、年度当初に予定していた検討事項をおおむね順調に達成することができたものである。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、これまでの検討によって、毛根部も含めた単毛髪試料中の薬物の質量分析イメージングが可能となった。しかし、毛根部と角質化した毛髪部分とは性状が著しく異なるため、単毛髪試料についてその両方に渡って精密な縦断面試料を作成することは容易ではない。また、MALDI質量分析においても、角質化した毛髪部分と毛根部の両方に渡って含まれる薬物のイメージングを定量的に実施することは容易ではない。 平成26年度には、毛根部を含めた毛髪内部における薬物分布をより詳細かつ定量的に可視化する技術を確立する。また、従来法による高感度分画定量分析についてもさらなる感度向上を追求し、単毛髪1ミリ単位の分画定量分析法を確立し、上記のイメージング結果の定量的な検証及びイメージング結果のサポートとしての活用を図る。 これにより、毛髪への薬物の取込み機序について詳細に検討を行う。具体的には、従来からの定説であった、①血流中の薬物が毛根から成長中の毛髪組織に取り込まれる経路と、②頭皮下において、体液、皮脂中の薬物が角質化後の毛髪に浸透移行して取込まれる経路との寄与割合、及び薬物の種類による相違について詳細に検討する。 これによって、未だ不明点の多い毛髪中への薬物の取込み機序を明らかにすることを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
MALDI質量分析イメージング装置の基盤の不具合等による断続的な不調により、分析研究が全体にやや遅延し、機器及び消耗品等に購入ペースも遅延した。 毛根部を含めた縦断面試料の作成は極めて困難な作業であり、なかなか思うように実験が進まなかった。その原因の一つが、その細さ故の試料の取り扱いの困難さである。現在まで使用して来た拡大鏡は解像度が低く、毛根部の精密な縦断面試料の調製に必要な詳細構造の観察が十分にできなかった。その反省のもと、比較的高倍率で視野の明るい双眼実態顕微鏡を導入し、拡大鏡下での緻密な作業の操作性の向上を図り、もって本研究課題全般の進捗スピードの向上を目指す。
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