研究課題/領域番号 |
24590070
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
加藤 くみ子 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 室長 (10398901)
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研究分担者 |
運 敬太 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 研究員 (80624535)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 薬物送達 |
研究概要 |
本年度は、細胞内取込後の各種高分子キャリアによるP-糖タンパク質(P-gp)に対する影響を評価することを目指した。P-gp膜透過評価系を用いて蛍光標識リポソーム添加一定時間後におけるP-gp介在性膜透過特性を評価した結果、リポソーム構成脂質にP-gp介在性膜透過が認められた。各種リポソーム構成脂質が、P-gp基質として知られているドキソルビシンの膜透過に及ぼす影響を評価した結果、リポソームの主構成成分として汎用されるリン脂質やコレステロールと比較して、ポリエチレングリコール(PEG)修飾を施したリン脂質が極めて高いドキソルビシン膜透過の抑制作用を示すことも明らかとなった。次に、培養液中ドキソルビシン濃度を段階的に増加することでP-gpを発現誘導したドキソルビシン耐性ヒト子宮頸癌由来HeLa細胞株 (HeLa/DXR)を樹立し、HeLa/DXRのドキソルビシンに対するIC50値が感受性株と比較して約50倍程度増大することを確認した。その後、各種リポソーム製剤の脂質組成がHeLa/DXR細胞からのドキソルビシン放出挙動に及ぼす影響を評価した結果、PEG修飾リン脂質をリポソーム構成脂質として含有させることで、HeLa/DXR細胞からのドキソルビシン排出量が減少し、長期的に細胞内にドキソルビシンが集積することを明らかとした。一般的に、PEG修飾リポソームは細胞内取込効率が低く、内封薬物であるドキソルビシンによるin-vitro殺細胞効果が未修飾リポソームと比較して低いことが知られている。一方で、同濃度のリポソーム製剤が細胞内に取り込まれた場合には、PEG修飾リン脂質によるドキソルビシンの細胞外排出抑制作用により、ドキソルビシンによる細胞毒性効果が増強されることを本結果は示唆している。さらに、本年度は各種リポソーム構成成分と細胞、血液成分との相互作用についても検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、まず細胞内に導入された各種高分子キャリア(リポソーム、高分子ミセル等)構成成分のP-糖タンパク質(P-gp)に対する親和性特性を評価する系を計画通りに構築することができた。また、培養液中に添加するドキソルビシン(DXR)量を段階的に増加することでP-gpが高発現したDXR耐性を有する癌細胞株を作製し、構築した抗癌剤耐性癌細胞を用いて、各種高分子キャリアの影響をin-vitro条件下において評価することも可能であった。各種高分子キャリア構成成分の細胞内動態に着目して、細胞内取込からP-gpを介した細胞外排出に至る過程の研究も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
リポソーム構成脂質として汎用されるリン脂質及びコレステロール、またポリエチレングリコール(PEG)修飾リン脂質やカチオン性リン脂質等の細胞内動態評価を行い、各種リポソーム構成成分の細胞内動態特性を明らかにする。また、内封薬物としてドキソルビシンを封入した際に、ドキソルビシンの薬理活性に及ぼす各種リポソーム構成脂質の影響について評価する。得られた各種脂質成分の細胞内動態に関する知見、特に細胞内動態特性や薬剤排出トランスポーターとの相互作用特性を基盤として、内封薬物の薬理活性向上や、抗癌剤耐性克服を可能にし得るキャリア設計を目指す。具体的には、組成や構成比率、粒子径や表面電荷、並びにキャリアの構造安定化法として汎用されるPEG鎖導入等が、ドキソルビシン等のP-糖タンパク質により細胞外排出される抗癌剤の薬理活性増強に及ぼす影響を解析する。 また、これまでに行った各種リポソーム構成脂質の細胞内動態特性評価は、主にヒト子宮頸癌由来HeLa細胞株を対象として検討を行ってきた。一方、細胞内発現タンパク質は細胞の種類によって大きく異なることが知られている。そこで、これまでに得られたリポソーム構成脂質の細胞内動態機構が他の細胞種においても普遍的に認められる現象であるか否かを評価すべく、複数の細胞株を用いて各種リポソーム構成脂質の細胞内動態特性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はすでに研究室で使用していた細胞株やキャリア成分を使用してきたため、次年度に使用する研究費が生じたが、次年度は、新たな細胞やキャリア成分の使用に当該研究費を使用する予定である。
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