研究課題/領域番号 |
24590073
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々 貴之 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (20342793)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脂質 |
研究概要 |
本年度は,極長鎖脂肪酸伸長酵素Elovl1 KOマウスの作製および解析を行った。 Elovl1 KOマウスは全て生後1日以内に死亡した。KOマウスの皮膚表面は皺が少なく突っ張っており,ウェットで紅斑性を示したため,E18.5胎児の皮膚を集中的に解析した。トルイジンブルー染色による表皮への色素の浸透度および皮膚からの水分蒸散量の測定により,KOマウスは皮膚バリアの形成不全を起こしていることを明らかにした。KOマウスの体重は経時的に減少し,12時間後には約30%の体重が失われ死亡することを明らかにした。KOマウスの体表面にワセリンを塗布し水分喪失を低下させたところ,体重減少率が未塗布の場合に比べて改善し,生存時間も約16時間まで延長したことから,生後致死の原因は皮膚バリア不全に伴う水分喪失によるものであると結論した。 Elovl1 KOマウスの表皮切片を電子顕微鏡観察したところ,顆粒層ケラチノサイトに存在する層板顆粒の数および大きさが減少し,層板顆粒内に通常存在する層状構造が観察されなかった。層板顆粒にはセラミド等の脂質が含まれ,その内容物が分泌されることにより角質層の細胞間脂質を形成することから,Elovl1は細胞間脂質の合成に関与している可能性が示唆された。 そこでElovl1 KOマウス表皮の脂質解析を行った所,セラミド総量が約50%に減少していた。特に,表皮に特徴的に存在する炭素数C26以上の極長鎖脂肪酸を持つセラミドおよびアシルセラミドが大きく減少していることを明らかにした。一方,コレステロールや脂肪酸およびスフィンゴミエリンなどの細胞間脂質を構成する他の脂質あるいはグリセロリン脂質の量に大きな変化は観察されなかった。 これらの結果はElovl1が表皮に存在する極長鎖セラミドおよびアシルセラミド合成に関与し皮膚バリア形成に必須な役割を果たすことを明らかにするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的に記載した平成24年度の研究計画をほぼ達成した。これまでの結果をまとめた論文がリバイス中であり,おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
極長鎖脂肪酸の皮膚以外における機能を明らかにする。 炭素数C24-C26の飽和極長鎖脂肪酸の分解不全による蓄積は副腎白質ジストロフィー(X-ALD)の病態に関与すると考えられており,その合成に関与するELOVL1の抑制はX-ALDの治療へつながる可能性がある。本研究では,Elovl1ノックアウトマウスとX-ALDの原因遺伝子であるABCD1のノックアウトマウスを交配し,Elovl1の機能低下にX-ALDの発症防止あるいは病態の進行を抑えるなどの効果があるかどうかを検討する計画であった。しかし,Elovl1ノックアウトマウスが生後致死となりコンディショナルノックアウトが必要となったこと,Abcd1ノックアウトマウスの表現型がX-ALDと比較して非常に弱く,わずかな症状があらわれるまでに時間がかかることから,Elovl1ノックアウトマウスの解析をさらに発展させることに注力する方針とした。 Elovl1ノックアウトマウスの生後致死性を回避し皮膚以外の組織における機能解析を可能にするため,表皮特異的にElovl1を発現するトランスジェニックマウス(Involucrin-Elovl1)を作製し,Elovl1ノックアウトマウスの生後致死性をレスキューする方針で研究を進めている。表皮特異的にElovl1を発現するInvolucrin-Elovl1系統が得られつつあり,Elovl1ノックアウトマウスとの交配を進めている。
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次年度の研究費の使用計画 |
学会参加費および飼育マウス数の調整により,若干の繰り越しを行った。今年度はInvolucrin-Elovl1系統の飼育と,解析に必要な試薬類の増加が見込まれるため,ほぼ申請時と同額の使用を計画している。
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