研究課題/領域番号 |
24590073
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々 貴之 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (20342793)
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キーワード | 皮膚バリア / 極長鎖脂肪酸 |
研究概要 |
本年度は,前年度に作製した極長鎖脂肪酸伸長酵素Elovl1 KOマウスの解析を継続して行った。 (1)Elovl1 KOマウスは皮膚バリア不全により生後1日以内に死亡することを明らかにした。 表皮切片を電子顕微鏡観察したところ,Elovl1 KOマウスでは皮膚バリア機能に必須である角層の細胞間脂質がほとんど存在しないことを見出した。細胞間脂質は顆粒層のケラチノサイトにより合成され層板顆粒内に蓄えられた前駆体脂質(セラミド,コレステロールなど)が分泌されることにより形成される。Elovl1 KOマウスでは層板顆粒の数および大きさが減少し,層板顆粒内に蓄えられた脂質により形成されるラメラ構造が観察されなかった。 表皮の脂質解析を行ったところ,Elovl1 KOマウスではセラミド総量が約50%に減少しており,特に,表皮に特徴的な炭素数26以上の極長鎖脂肪酸を持つセラミドおよびアシルセラミドが大きく減少していることを明らかにした。アシルセラミドは炭素数30-36の極長鎖脂肪酸を持つ皮膚バリアに必須なセラミドであり,本研究により,Elovl1が表皮アシルセラミド合成経路において炭素数24から26への伸長を触媒する重要な酵素であることが明らかになった。皮膚バリアに関する本研究成果は論文として公表した。 (2)Elovl1ノックアウトマウスの皮膚バリア不全による生後致死性を回避し皮膚以外の組織における機能解析を可能にするため,表皮特異的にElovl1を発現するトランスジェニックマウスを作製し,Elovl1ノックアウトマウスと交配した。その結果,成体まで生存し表皮以外はElovl1がノックアウトされている個体を得ることに成功した。この「レスキューマウス」の予備的な解析により興味深い表現型を見出しており,今後はその解析を中心として極長鎖脂肪酸の機能と病態への関与について更に解明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Elovl1 KOマウスの作製および解析により,Elovl1が皮膚バリアに必須なアシルセラミド合成に関与することを明らかにし論文として報告した。さらに,表皮以外はElovl1がノックアウトされている「レスキューマウス」の作製に成功し,表皮以外の組織におけるElovl1の機能解析を可能にしたことから,研究目的は順調に達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
表皮以外はElovl1がノックアウトされている「レスキューマウス」の作製に成功し,表皮以外の組織におけるElovl1の機能解析が可能になった。今後はこのレスキューマウスの解析を中心に研究を進める。Elovl1により合成される炭素数22以上の極長鎖脂肪酸はほとんどの臓器に存在するが,そのレベルは肝臓や神経系のミエリン,腎臓などにおいて特に高い。まずはこれらに臓器,組織に着目し組織学的,生化学的,生理的解析を行う。また,これらの臓器,組織以外においてもすでに興味深い表現型を見出しており,その解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は計画的な交配によりマウス飼育費が抑えられたこと,アイソトープおよび脂質などの試薬類の購入額が計画より少なかったことによる。 今年度はレスキューマウスの解析のため,マウスの飼育数増加と解析のためのアイソトープおよび脂質購入額の増加が見込まれるので,未使用額304,449円をこれらの用途に主に用いる。
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