研究課題/領域番号 |
24590074
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 宏治 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (80360949)
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研究分担者 |
小林 正伸 北海道医療大学, 看護福祉学部, 教授 (80241321)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 低酸素応答 / 低グルコース応答 / HIF-1 / SIRT7 |
研究概要 |
本年度は、SIRT7による低酸素適応応答の分子機構の解析を行った。 SIRT7と物理的に相互作用するタンパク質の探索を行った。293細胞における免疫沈降実験の結果、SIRT7新規結合タンパク質として、癌遺伝子産物であり、HIF-1αと直接結合して癌細胞の低酸素適応応答制御にも関与するMurine double minute 2 (MDM2)を同定した。大腸菌で発現・精製した組換えタンパク質を用いたGST pull downアッセイにおいても、SIRT7がGST-MDM2と共沈降することが観察され、SIRT7とMDM2は直接結合することが示された。さらに、293細胞を用いたチェイス実験の結果から、siRNAを用いてSIRT7をknock downした場合、MDM2タンパク質の分解速度が増加することが観察された。以上の結果から、SIRT7は、MDM2と直接結合することにより、MDM2タンパク質の安定化を促進していることが示唆された。今後、SIRT7によるMDM2安定化の分子機構と、HIF-1α-SIRT7-MDM2系による癌化機構および低酸素適応応答機構を明らかにしていく予定である。 また、293T細胞およびDLD1細胞にSIRT7に対するsiRNAを導入し、増殖関連遺伝子の発現に対する効果をリアルタイムPCR法で解析した結果、HIF-2αの標的遺伝子であるcyclinD2の発現が低下していることが判明し、SIRT7が低酸素下での細胞増殖を正に制御している可能性が示唆された。 また、低酸素・低グルコース環境下で活性化されるキナーゼであるAMPKの新規結合タンパク質として、核内タンパク質Artemisを同定した。ArtemisはLKB1-AMPK複合体を安定化させることにより、AMPKシグナルの活性化していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、SIRT7による低酸素適応応答の分子機構の解析を行い、SIRT7と物理的に相互作用するタンパク質としてMDM2を同定した。MDM2はHIF-1αと相互作用することが既に知られており、HIF-1α-SIRT7-MDM2が複合体を形成して機能している可能性が示唆され、SIRT7による低酸素適応応答の分子機構を解明するうえで、大きな進展であると考える。また、SIRT7が細胞増殖を促進するcyclinD2の遺伝子発現を正に制御していることを見出したが、この知見は、SIRT7が癌遺伝子として機能するという最近の報告を支持するものであり、SIRT7を介した癌化機構を解明する為の重要な知見であると考える。これらの点から、本年度の達成度は概ね良好であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究計画にあるHIF-1αのアセチル化状態の検出に関しては、現在のところ明確な結果は得られておらず、その点で若干の計画の遅れが生じている。HIF-1αの内在性のアセチル化が低レベルであること原因と考えられることから、HIF-1αのアセチル化酵素であるp300/CBPやGCN5/PCAFを強制発現させることにより、アセチル化を促進することにより、検出が容易になると考えている。平成25年度は、この点を中心にSIRT7による低酸素適応応答の分子機構の解析を引き続き行うとともに、これまで得られた分子レベルでの知見を基に、SIRT7が低酸素・低グルコース下の癌細胞の応答反応に及ぼす影響を細胞生物学的に明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A): 4,836円は、H25年3月1日にHybri-Bag Hard(4,200円)を購入し、またH25年3月5日にダルベッコりん酸緩衝生理食塩水 500ML(636円)を購入して、すでに全額執行しているが、年度末であった為、会計処理上H25年度に移行したものである。 また、H25年度の直接経費(1,700千円)の使用予定は以下のとおりである。 1.物品費(1,500千円)[内訳 1) 分子生物学試薬(400千円)2) 細胞生物学試薬(400千円) 3) ヌクレオチド合成(100千円)4) 抗体(200千円)5) 血清・細胞培養試薬(200千円): 6) プラスチック器具類(200千円)] 2.旅費(150千円)[国内学会参加費] 3.その他(50千円)[内訳 1)論文投稿の為の英文校正(25千円)、2) DNAシークエンス解析外注費(25千円)] また、H26年度の直接経費(800千円)の使用予定は以下のとおりである。 1.物品費(600千円)[内訳 1)実験用マウス(300千円)2) 病理学実験試薬(300千円)] 2.旅費(150千円)[国内学会参加費] 3.その他(50千円)[内訳:論文投稿の為の英文校正(50千円)]
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