研究課題
昨年度から引き続き糖鎖改変Namalwa細胞を用いて、胚中心に特徴的な糖鎖のB細胞シグナル伝達に関わる機能的な検証を進めた。CD77はスフィンゴ糖脂質の一種で、別名Gb3とも呼ばれる。CD77の生合成にはalpha 1,4 galactosyltransferase (A4GALT)が関わるが、この酵素のDxDモチーフに変異を入れたA4GALT-TXT変異体においては、A4GALTが基質として用いるラクトシルセラミド以降の生合成を抑制する。そこで、コントロールベクター・A4GALT・A4GALT-TxTを発現する細胞を用いてB細胞抗原受容体(B cell receptor, BCR)を介した抗原刺激シグナル伝達における影響を調べた。A4GALT-TxT変異株ではカルシウムイオンの流入が亢進していたが、これと同様に、ホスホリパーゼγ経路に関わると考えられる、BLNKのリン酸化の亢進が見られた。一方で、BCRからのシグナル伝達を伝えるPI3キナーゼ経路の下流であるCD19のリン酸化には変化を与えないことが明らかになった。つまり、糖脂質の発現が影響を与えるのは、シグナル伝達経路特異的であることが明らかと成った。この結果は胚中心B細胞が糖鎖の発現制御を介して、特定のシグナル伝達経路のみを制御することが可能であることを指し、BCRという一つの抗原受容体から、多彩なB細胞のシグナル伝達の使い分けを可能にする分子基盤となることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は、胚中心で活性化B細胞に起こる糖鎖変化がどの程度機能的であるかについては、多くの情報もなく、ゴルジ体内での糖転移酵素のバランスの変化によって、結果的に起こる変化である可能性も十分考えられた。しかしながら、今回の結果から、この変化が、具体的な下流のシグナル伝達経路を標的として、特定のシグナル伝達にかかわるプロセスに関してのみ影響を及ぼすことが証明され、研究開始当初の懸念を完全に払拭することができたため、高い評価が下せる。
糖鎖がそもそも細胞内シグナル伝達経路について、機能性をもって関わることが明らかとなったため、後は、それぞれの糖鎖とそれぞれのシグナル伝達経路を調べることで、全貌が明らかになることが期待される。そこで、現在まで結果の揃っていないST3GAL1発現細胞での結果についても、カルシウムイオンの流入、ホスホリパーゼγ経路、PI3キナーゼ経路、また、それらの下流に位置すると思われるMAPキナーゼ経路などの経路特異的な影響を調べる。また、CD77発現改変細胞においても同様の総当たり実験をすることで、胚中心B細胞糖鎖とBCRシグナル伝達経路の機能的な関わりについて全貌を調べる。A4GALT発現細胞においては、PI3キナーゼ経路活性化を媒介するCD19に特に着目し、これに対する影響をさらに詳しく明らかにする。
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http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/140120_2.htm