増殖因子受容体などの膜貫通タンパク質は細胞膜上をダイナミックに動き回り、その結果分子同士が特異的に会合する現象(細胞膜上分子間相互作用)が観察される。研究代表者は、前年度までに肺がん特異的な分子会合体とその発現が関どのように癌形質に関与するか検討するために研究を進めてきた。 前年度は、同定した会合体分子群を培養細胞に発現させてシグナル伝達等の研究を行うための分子会合体発現細胞の作製を行ったが、うまくいかなかったことで期間延長を行った旨の報告を行った。その後、2分子会合体のうち、一方はレンチウイルスを用いた発現系、もう一方は通常の発現ベクターによる発現を行う事とし、実験を行った。その結果、各分子を発現させる順番等を最適化すると、前年度より2分子を発現した会合体発現細胞が作製しやすくなり、いくつかの2分子会合体発現細胞を樹立することができた。それらを用いて、シグナル伝達や細胞増殖に関する実験を試みる予定であったが、同時に展開していた2分子会合体認識抗体作製について、最適な共同研究者が見つかったため、作製した細胞をそちらの用途に先に使用することとした。 一方、2分子会合体認識抗体は将来的に抗体医薬品の創薬に繋がるため、これら同定した分子会合体が、ヒトの肺がん組織に実際に存在するか否かを確かめる目的で、ヒト肺がん患者の病理切片を購入し、共焦点顕微鏡を用いて同定した会合体の存在について確認した。その結果、肺がん患者病理切片で同定した2分子会合体が高率に検出出来ることが分かった。
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