研究課題/領域番号 |
24590086
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
中西 真弓 岩手医科大学, 薬学部, 准教授 (20270506)
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研究分担者 |
二井 將光 岩手医科大学, 薬学部, 教授 (50012646)
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キーワード | 細胞内イオン環境 / プロトンポンプV-ATPase / 破骨細胞 / 酸性環境 / 分泌リソソーム / 小胞輸送 / イソフォーム / Rab7 |
研究概要 |
本研究は、酸性環境の形成や小胞輸送において、プロトンポンプV-ATPaseが果たす役割の解明を目的としている。V-ATPaseは、ATPの加水分解とプロトンの輸送をサブユニット間の相対的な回転により共役している。哺乳類では、細胞あるいはオルガネラによって構造が少しずつ異なっており、この多様性が多彩な酸性環境の形成を可能にしていると考えられる。 我々は、構造の違いによるポンプとしての性質の違いを明らかにするため、まず、酵母のV-ATPaseを用いて、サブユニット回転を一分子で観察する実験系を構築し、基質が過剰な条件下での回転速度や回転時に生じるトルクの大きさを解析した。今年度は、時間を延長して観察したところ、V-ATPaseは停止することなく連続回転することが明らかとなった。一方、類似の構造を持ち、回転機構の詳細が明らかになっているF-ATPase(ATP合成酵素)は、1秒ごとに連続回転と停止を繰り返すことが知られている。したがって、V-ATPaseが停止しないことは、ポンプとしての大きな特徴のひとつである。現在、回転機構を詳細に解析するため、空間解像度の改善を目指してプローブを検討している。 小胞輸送については、破骨細胞におけるリソソームの形質膜近傍への輸送に注目している。これまでに、a3(プロトン輸送路を形成するaサブユニットのリソソーム特異的なイソフォーム)が、リソソームの輸送と、破骨細胞に特徴的な微小管の配置に必須であることを示した。今年度は、リソソームの輸送には酸性環境が重要であることを明らかにした。さらに、微小管上の輸送を制御するGTP結合タンパク質であるRab7を、a3がリソソームにリクルートすることを示した。Rab7のリクルートにより、リソソームが微小管に結合していると考えられる。これは、破骨細胞におけるリソソーム輸送の分子機構の解明につながる成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
V-ATPaseによる酸性環境の形成機構に関しては、酵母の酵素を用いた一分子観察系が構築済みであり、既に、回転速度、トルクの大きさや、連続的に回転するなどのポンプとしての特徴を明らかにしている。今後は、構造が少しずつ異なるV-ATPaseの解析に着手する予定である。 また、オルガネラ輸送におけるV-ATPaseの役割については、a3遺伝子欠損マウスなどを用いて、細胞骨格系との関連性、酸性環境の重要性、a3によるRab7のリソソームへのリクルートなど、分子機構の解明に向けた重要な発見をしている。今後は、Rab7の活性化によるリソソーム輸送の制御とV-ATPaseによる酸性化の関連性に注目して解析を進める。 以上のように本研究課題は、おおむね順調に成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
酵母のV-ATPaseを用いてサブユニット回転を観察することにより、この酵素のポンプとしての性質を解析してきたが、今後、構造の僅かな違いによる回転の違いを明らかにするためには、実験系の空間解像度を上昇させることが不可欠である。現在、サンプルの調製方法や、プローブの種類や大きさについて検討を進めており、早急に実験条件を決定する予定である。 破骨細胞におけるリソソームの輸送については、25年度の成果を踏まえて、Rab7の活性化状態とa3イソフォームとの結合、活性化やa3との結合への酸性度の関与を検討する。さらに、in vitroで破骨細胞へ分化誘導する実験系を用い、RNAiによるノックダウンや、恒常的活性型あるいは不活性型のRab7を強制発現させて、Rab7がリソソームの輸送に関わることを検討する。また、破骨細胞においてa3の抗体と共沈するタンパク質を解析し、リソソームの輸送に関わる因子を網羅的に同定する。 上記の方向性により、オルガネラ輸送と酸性環境の形成機構の解明に迫る。
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次年度の研究費の使用計画 |
a3遺伝子欠損マウスの脾臓からマクロファージを回収して破骨細胞に分化させているが、当初の見積もりよりも多くのマクロファージが回収できることがわかり、マウスの使用数を減らして実験している。マウスの維持に必要な費用が削減できため、次年度使用額が生じた。 順調に成果が出ていることから、次年度は、当初の予定よりマンパワーを投入して研究を推進したいと考えている。そこで、研究補助員への謝金として研究費の80%近くを使用する予定である。残りの約20%は、実験動物の維持や細胞培養や回転観察のための試薬の購入にあてる。
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