本研究は、V(液胞型)-ATPaseによる酸性環境の形成や小胞輸送の分子機構の解明を目的としている。 これまでに、構造的に多様なV-ATPaseの「ポンプ」としての性質を比較するため、酵母のV-ATPaseを用い、サブユニットが回転する様子を酵素一分子で観察する実験系を構築した。回転速度やトルクを測定したが、僅かな性質の違いを解析するには、空間解像度を改善する必要があった。今年度、実験条件を検討したところ、サンプルに含まれる界面活性剤が回転観察に影響することがわかった。そこで、適した界面活性剤の種類と濃度を決定した。プローブの大きさや導入する位置、酵素の精製など、引き続き実験系の改善を図る。 小胞輸送に関し、破骨細胞への分化に伴いリソソームが細胞膜に向かって移動する現象に注目した。これまでに、リソソームの輸送にはV-ATPaseのa3イソフォームが必須であること、a3がオルガネラ輸送調節因子であるRab7と結合することを見出した。また、a3は破骨細胞に特徴的な微小管の形成にも必須であった。今年度、a3は活性型Rab7より不活性型と強く結合すること、また、Rab7はa3に特異的に結合する(a1、a2とは殆ど結合しない)ことを見出した。さらに、a3欠損マウスの破骨細胞では、Rab7はリソソームに局在しないこと、リソソームの輸送にはRab7が活性型である必要があることを示した。また、阻害剤を用い、輸送には、この酵素が形成する酸性環境が重要なことを示唆した。しかし、a3とRab7の結合に酸性度は影響しなかった。以上の結果から、分化に伴いa3は不活性型Rab7をリソソームにリクルートし、その後、Rab7が活性化されてリソソームが移動するというオルガネラ輸送の分子機構を明らかにした。これは、破骨細胞による骨吸収のメカニズムを理解する上で重要な知見である。
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