研究課題
本研究では、DNA複製開始機構とゲノム安定性維持機構との連携の生理的重要性を提示することを目的とする。高等真核細胞中では、CDT1の制御がDNA複製開始のスイッチのひとつとなり、DNAの過剰な複製を抑止する。これに加え、CDT1自身がDNA複製を抑制的に制御する可能性が見出されたため、この機能に関与する領域を特定することを目指して、CDT1の欠失変異体をグルタチオン-S-転移酵素 (GST) 融合タンパク質として大腸菌で発現した。その精製にあたり、従来の方法では困難であった組換えタンパク質からGSTを除去し、効率よくCDT1組換えタンパク質を得る条件を確定した。PreScission ProteaseによるGSTの切除では、従来、同様の目的に利用されて来たThrombinなどのプロテアーゼとは異なり、低温下で反応がおこなえる。このプロテアーゼを用いて反応条件などを細かく検討し、分解産物の少ないCDT1組換えタンパク質の精製画分を効率よく得る条件を設定した。得られた精製画分を用いて、DNA複製抑制に係るCDT1の機能領域を検討したところ、N末側239アミノ酸とC末側153アミノ酸は、DNA複製の抑制に必須の役割を果たしていないことが示唆された。さらに、ニワトリDT40由来Tipin遺伝子破壊細胞の解析から、DNA複製装置の構成因子であるTimeless/Tipin複合体が、抗癌剤としても利用されるトポテカン (カンプトテシン) によるDNA複製の障害を抑制する働きをもつ可能性と、ワーナー症候群原因遺伝子産物の結合タンパク質として同定されたWRNIP1について、同様のDT40由来遺伝子破壊細胞の解析をおこない、このWRNIP1が、紫外線損傷を乗り越えてDNA複製を進行させるDNAポリメラーゼηの働きを制御する機能を持つことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
信頼性の高い新規組換えタンパク質を効率よく獲得する条件を確立し、多くの組換えタンパク質を順調に精製することが可能になった。実際に、比較的短い期間で、多くの組換えタンパク質を得ている。培養細胞を用いた遺伝学的、細胞生物学的な解析に加えて、生化学的な手法を利用しながら解析を順調に進めている。
DNA複製開始やゲノム安定性維持機構において機能する諸過程に関わるタンパク質との相互作用を想定しながら、RECQL4、CDC6、CDT1の機能を記述、理解することに重点を置く予定である。具体的には、これらのタンパク質の欠失変異体、点変異体の作製、解析を中心として、部分領域の機能や翻訳後修飾の役割を、これまでの研究を発展させた細胞生物学的解析と各種組換えタンパク質を用いた生化学的解析の両面から検討する。同時に、Xenopus 卵抽出液を用いた無細胞実験系に応用できる新たな生化学的指標を探索し、本研究に応用することを目指す。
新年度は東邦大学に実験の本拠を移動して研究を推進する予定となっている。2年連続で研究の本拠地を移動することになり、研究自体は順調に進行しているものの、年度を跨ぐ可能性のある試薬、消耗品等の調達や、抗体作製等の委託を新年度の開始まで遅らせている状態である。新年度に入り研究経費の移管作業が終了したのちできるだけ速やかに、滞っている試薬、消耗品、機器、業務委託などを最終年度に向けて発注する予定である。消耗品費としては実験用ガラス器具、実験用プラスチック器具、試薬類の購入をおこなう。試薬類には、細胞培養用の培地、血清を含む。また、抗体作製、核酸分析およびオリゴDNA作製委託にかかる費用にも研究費を使用する。また、抗体等の作製委託をおこなう。卵抽出液を用いた生化学的検討のため、実験動物 (Xenopus laevis) の購入も計画する。さらに、成果発表のための論文作製・投稿、あるいは学会参加費用も計上する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 289 ページ: 11374-11384
10.1074/jbc.M113.531707