研究課題/領域番号 |
24590090
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
本間 浩 北里大学, 薬学部, 教授 (50190278)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | D-アスパラギン酸 / ラセマーゼ / D-アミノ酸 / 組換えタンパク質 / siRNA |
研究概要 |
高等動物の神経内分泌系や内分泌系には、D-アスパラギン酸(Asp)が高濃度に存在しており、ホルモンの合成や分泌に関与することが明らかになっている。これらの組織ではD-Aspを新規な機能分子とするバイオシステムが存在し、ホルモンのホメオスタシスに関わっていると考えられる。しかし、D-Aspの生合成経路はほとんど明らかになっていない。 これまでに、ほ乳類にD-セリン(Ser)の合成を担うラセマーゼが見出されたこと、下等動物(アカガイ)から特異的なAspラセマーゼがクローニングされ、Serラセマーゼと同じファミリーに属することなどが明らかにされたことから、我々はAspラセマーゼがその生合成を担っていると想定している。平成24年度には、1)候補クローンの組換えタンパク質を調製して解析を行うことと、2)我々が開発したHPLCシステムを用いて、ヒト(およびげっ歯類)の培養細胞株の中から、D-Asp合成能を有する細胞株を特定することを目標とした。 1)N末端にHisタグを有するヒトAspラセマーゼホモログを発現するプラスミド(hAspR/pRSET-B)を構築し、大腸菌内で発現する条件(培養温度、培養時間、発現誘導剤濃度、D,L-Aspの添加の有無などを変えた30通りの条件)を検討した。しかし、検討したすべての条件で、組換えタンパク質は不溶性の画分に回収され、以後精製することができなかった。今後、タグの位置や種類を変えての検討が必要と考えられる。2)ラット由来の細胞株であるPC12、GH3、NRKにおいてD-Aspが検出され、その含量はGH3>PC12>NRKの順で、D%はほぼ5~6%であった。ヒト由来の細胞株では、NEC8をはじめとする4種類の株にD-Aspが検出され、D%は1~14%と多様であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトAspラセマーゼホモログは、検討したすべての条件下で、大腸菌体内の不溶性画分に回収されてしまい、アフィニティークロマトグラフィーによる精製と、その後の酵素の諸性質の検討を行うことができなかった。今後、不溶化したタンパク質の尿素または塩酸グアニジンを用いた可溶化と透析による再生を考慮する必要があると考えられる。組換えタンパク質の不溶化は、そのタンパク質自身の性質に依存する場合が多いと考えられているため、組換えタンパク質を大腸菌体内で発現するというアプローチは難しいかもしれないが、今後、タグの種類や位置を変えた検討や酵母や昆虫細胞内での発現を検討する必要があると考えられる。 一方、ラットおよびヒト由来の細胞株で、D-Asp合成能を有すると考えられる株を特定することができた。これらの細胞株を用いて、ヒトAspラセマーゼホモログやその他の候補クローンの発現を解析し、D-Asp含量との関連の解析を進めていく予定である。また、当初の実験計画に基づいて、ヒトAspラセマーゼホモログおよびその他の候補クローンのsiRNAを安定的に発現する株を調製し、D-Asp生合成に関与する遺伝子クローンの特定へ向けて解析を進めていく予定である。平成24年度にD-Asp合成能を有する細胞株を複数特定できたことから、本研究が概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
D-Asp生合成酵素の活性発現に、翻訳後修飾や複数のタンパク質の物理的会合が必要な場合などでは、大腸菌内での組換えタンパク質の発現により生合成酵素を同定することは難しい。しかし、D-Aspを合成する細胞を用いて、候補遺伝子の発現を抑制してD-Aspの生成量が変化するかどうかを観察する方法は、遺伝子を同定するには有効なアプローチといえる。平成24年度に、D-Asp生合成能を有する細胞株を複数特定することができたが、今後は以下の実験計画を主に行っていく予定である。組換えタンパク質の発現に関する実験は補完的に行うこととする。すなわち、1)D-Aspを合成する培養細胞株において、合成酵素の候補遺伝子の発現量とD-Asp含量との相関関係を解析することと、2)D-Aspを合成する細胞株に候補遺伝子のsiRNAを発現するプラスミドを導入して安定発現株を取得し、D-Asp含量がどのように変化するかを解析する。D-Aspの定量は、我々が開発したHPLCシステムを用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では、2413円が基金分として繰越しとなったが、これは消耗品費としてちょうど残金が0円となるように支出できなかったためである。平成25年度においては、この金額を含めて消耗品費とし、研究計画にしたがって支出する予定である。
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