研究課題/領域番号 |
24590095
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山下 純 帝京大学, 薬学部, 教授 (80230415)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リゾホスファチジルイノシトール / ホスホリパーゼA1 / リゾリン脂質メディエーター / マリファナ受容体 / GPR55 / アシルトランスフェラーゼ |
研究概要 |
私は新規マリファナ受容体として同定されたGPR55の内在性リガンドの探索を行い、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)がアゴニスト作用を持つことを明らかにした。構造活性相関の実験より、2-アラキドノイルLPIが最も作用が強いことを明らかにしている。 2-アラキドノイルLPI産生酵素の同定 LPIの産生には、ホスファチジルイノシトール(PI)を基質とするホスホリパーゼA (PLA1, PLA2)が関与することが考えられる。しかし、PIに特異的なPLA1やPLA2は未だ知られていない。私たちはホスファチジン酸(PA)を基質として好むPA-PLA1として同定された酵素、DDHD domain containing 1 (DDHD1)に注目した。DDHD1をHEK293細胞に発現させ、この細胞からDDHD1を精製した。精製酵素はPIを基質として2-アラキドノイルLPIすることができた。また、DDHD1を発現させたHEK293細胞をイオノフォアで刺激すると、刺激に応答して2-アラキドノイルLPIすることも明らかになった。また、モデル細胞に於いて、DDHD1の活性化にホスホリパーゼD(PLD)の活性化とその結果生じたPAが関与することを見いだしている。 また、DDHD1が遺伝子に変異が存在する家系を見いだし、DDHD1が欠損すると遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia)となることを明らかにした。3つの家系を見いだし、変異によりエキソン4または10の途中にストップコドンを生じるもの、エキソン7と11の後にスプライシング異常を起こすものであった。これらの変異はTruncate型酵素を生じるはずである。2-アラキドノイルLPI産生酵素の変異が神経変性疾患につながることは非常に興味深いことと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に記した研究は、おおむね順調に進展している。DDHD1の生化学的な性状は以前より調べていたが、本研究で、精製DDHD1の酵素学的な性状を詳しく調べた。基質特異性を検討し、PIだけでなくホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)など、他のリン脂質も基質になることが確かめられた。発現細胞を用いた細胞レベルでの基質特異性の検討でも、DDHD1は2-アラキドノイルLPIだけでなく、LPA、LPCなど他のリゾリン脂質の産生酵素としても働くことがわかった。また、発現細胞での活性は、細胞をイオノフォアで刺激した場合に顕著で、刺激に応答して活性化されることも明らかになった。DDHD1の活性化に、刺激に応答して産生されるホスホリパーゼD(PLD)によるPAが関与することも明らかになった。 さらに、DDHD1の機能を抑制するmiRNA発現ベクターの作成や遺伝子導入の予備検討は順調に進んでいる。 また、研究の途上でDDHD1遺伝子の変異により遺伝性痙性対麻痺という病気が起るという興味深い発見をした。DDHD1が遺伝子に変異が存在する3つの家系を見いだした。エキソン4または10の途中にストップコドンを生じるもの、エキソン7と11の後にスプライシング異常を起こすもので、これらの変異はTruncate型酵素を生じるはずである。2-アラキドノイルLPI産生酵素の変異が神経変性疾患につながることは非常に興味深いことと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
DDHD1遺伝子の変異により遺伝性痙性対麻痺が起るという興味深い発見をした。ミトコンドリアに存在するP450系の酵素であるCYP2U1の変異も同時に遺伝性痙性対麻痺を起こすことを見いだした。CYP2U1の変異は、ミトコンドリアの機能と形態に異常を起こすことを確認している。 類似の病気を起こすDDHD1遺伝子の変異によっても、ミトコンドリアに異常を起こすことが考えられるが、DDHD1のミトコンドリアへの影響は十分に分かっていない。ミトコンドリアを可視化した細胞などを用いて、DDHD1のノックダウンおよび過剰発現におけるミトコンドリアの機能と形態に異常を調べる。 DDHD1はサイトソルに存在しミトコンドリアに結合するかどうかは分かっていない。DDHD1のミトコンドリアへの結合を解析する。DDHD1がどのようにミトコンドリアの機能に影響するのか、さらにミトコンドリアの機能異常がどのように遺伝性痙性対麻痺に結びつくのかを詳しく調べる。 遺伝性痙性対麻痺とLPIの産生の関係を調べる。DDHD1はLPI産生酵素としても機能しうる。LPI-GPR55の系が遺伝性痙性対麻痺につながるかを検討する。 平行して、1-ステアロイルLPIの産生酵素を同定する。1-ステアロイルLPIはPLA2の作用で生じることが考えられるが、PIを基質とするPLA2は知られていない。各種PLA2分子種のクローニングおよび発現細胞を調製する。これらの細胞を用いて、1-ステアロイルLPIを産生するPLA2を同定する。一方でPLA2以外の酵素がLPIを産生する可能性を模索する。具体的には、LPIアシルトランスフェラーゼ(LPIAT)の逆反応により、LPIを産生する可能性を考慮し、LPIAT発現細胞、およびLPIATをノックダウンした細胞を用いて、LPIの産生能を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は消耗品の購入にあてる。 遺伝子クローニング用の試薬やsiRNAなど分子生物学用の試薬、ミトコンドリアの機能や形態を解析するための試薬や抗体を購入する。pCMV/MitoGFPやMitoTrackerでミトコンドリアを可視化した細胞を用い、DDHD1のノックダウンや過剰発現の影響を調べる。 DDHD1が他のオルガネラに対する影響を与えることを考慮して、ゴルジ体やシナプス小胞を可視化した細胞を作成する予定である。 1-ステアロイルLPIの産生酵素を同定するために、ホスホリパーゼA2やアシルトランスフェラーゼの遺伝子のノックダウンや過剰発現細胞を調製して、LPIの産生への影響を検討する。
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