研究課題/領域番号 |
24590095
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山下 純 帝京大学, 薬学部, 教授 (80230415)
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キーワード | リゾホスファチジルイノシトール / ホスホリパーゼA1 / リゾリン脂質メディエーター / マリファナ受容体 / GPR55 / アシルトランスフェラーゼ |
研究概要 |
私たちは、ホスホリパーゼA1のアイソフォームであるDDHD1が、新規マリファナ受容体であるG protein-coupled receptor 55 (GPR55)のアゴニストのリゾホスファチジルイノシトール(LPI)を産生することをin vitroの実験で明らかにしている。また、この酵素の変異は遺伝性痙性対麻痺となることを明らかにした。また、DDHD1の変異がミトコンドリアの機能低下を起こすことを見いだしている。 DDHD1のミトコンドリアに対する影響を調べた。ミトコンドリアを可視化したNIH3T3細胞にDDHD1を発現させると、ミトコンドリアが断片化する傾向にあることを明らかにした。DDHD1の機能欠損だけでなく過剰な機能がミトコンドリアに影響を与えることが考えられた。 レトロウイルス発現系を用いてFLAG-DDHD1の安定発現細胞を作成した。組換えウイルスを様々な培養細胞に感染させて発現細胞を単離すると、コントロールのウイルスの場合は、いずれの細胞においてもトランスフォーマントが得られたが、組換えDDHD1ウイルスを感染させた場合、トランスフォーマントの数が有為に低下した。HeLa細胞では単離することができなかった。DDHD1の発現が細胞の生存に負の影響を及ぼすことが示唆された。 DDHD1のノックダウン細胞を作成するために、DDHD1に対する組換えmiRNA発現ベクターを作成した。FLAG-DDHD1発現HEK293細胞を用いて、組換えmiRNA発現ベクターの効力をWestern blottingにて検討した。DDHD1に対する組換えmiRNA発現ベクターは、タンパク質レベルでDDHD1の発現を抑制することが明らかとなった。 また、LPIアシルトランスフェラーゼ(LPIAT)を発現させた細胞の膜画分をCoAとインキュベートすると、LPIが産生することが明らかとなった。LPIATの逆反応が、LPIを産生することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に記した研究は、おおむね順調に進展している。DDHD1の機能欠損がミトコンドリアの機能低下を起こすことを明らかにしているが、過剰発現についても、ミトコンドリアの形態や細胞の生存に負の影響を及ぼすことが示唆された。 ミトコンドリアを可視化した細胞にDDHD1を発現させるとミトコンドリアが断片化する傾向にあること、レトロウイルスベクターでDDHD1を発現させた場合、トランスフォーマントの数がコントロールウィルスに比べ有為に少ないことなどから、DDHD1のホスホリパーゼA1活性の細胞レベルの役割が示唆された。組換えレトロウイルス感染によるトランスフォーマントの減少は、DDHD2の発現によっても観察されたので、ホスホリパーゼA1の未知の細胞機能への影響の解明につながることが考えられる。 平行して、LPIの産生酵素の探索を行っている。PLA2以外の酵素が1-ステアロイルLPIを産生する可能性を模索した。LPIアシルトランスフェラーゼ(LPIAT)を発現させた細胞の膜画分をCoAとインキュベートすると、LPIが産生成することが明らかとなった。LPIATの逆反応が、LPIを産生することが示された。 LPIアシルトランスフェラーゼ(LPIAT)の逆反応により、LPIを産生する可能性を示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
DDHD1遺伝子の変異により遺伝性痙性対麻痺が起るという興味深い発見をした。DDHD1の過剰発現によりミトコンドリアの形態に異常が起こることを明らかにしたが、形態だけでなくミトコンドリアの融合にも影響を及ぼすか検討する。現在、ミトコンドリアの融合を定量的に検討する方法を準備中である。 DDHD1はサイトソルに存在しミトコンドリアの脂質をどのように分解するかは分かっていない。DDHD1のミトコンドリアへの結合を解析する。また、ミトコンドリアに存在するホスホリパーゼD(MitoPLD)がホスファチジン酸(PA)を産生し、ミトコンドリの融合に関与するという興味深い論文が発表されている。MitoPLDとDDHD1の役割の連関を詳しく調べる。DDHD1がどのようにミトコンドリアの機能に影響するのか、さらにミトコンドリアの機能異常がどのように遺伝性痙性対麻痺に結びつくのかは明らかでないので詳しく調べたい。 遺伝性痙性対麻痺とLPIの産生の関係を調べる。DDHD1はLPI産生酵素としても機能しうる。LPI-GPR55の系が遺伝性痙性対麻痺につながるかを検討する。 DDHD1は、ミトコンドリアの機能調節の他、内因性カンナビノイドLPIの産生酵素としても機能する。遺伝性痙性対麻痺におけるDDHD1の基質がPAなのかあるいはPIなのかを検討する必要がある。 平行して、さらにLPIの産生酵素を同定する。1-ステアロイルLPIはPLA2の作用で生じることが考えられるが、PIを基質とするPLA2は知られていない。各種PLA2分子種のクローニングおよび発現細胞を調製する。これらの細胞を用いて、1-ステアロイルLPIを産生するPLA2を同定する。また、LPIアシルトランスフェラーゼ(LPIAT)の逆反応により、LPIを産生する可能性を考慮し、LPIAT発現細胞、およびLPIATをノックダウンした細胞を用いて、LPIの産生能を検討する。
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