研究課題/領域番号 |
24590096
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山口 真二 帝京大学, 薬学部, 准教授 (60398740)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生化学 / 行動生化学 / 分子生物学 / 記憶 / 刻印付け |
研究概要 |
本研究の目的は、鳥類ヒナに見られる「刻印付け(刷り込み)」を記憶のモデルとして利用し、記憶学習における神経回路改編の分子メカニズムを明らかにすることである。代表者は、cDNAマイクロアレイ解析により刻印付けに関連する遺伝子の同定を試みた。その結果、細胞骨格を制御する細胞骨格結合蛋白の遺伝子発現が、刻印付けに伴い上昇することを見出した。この知見に基づき、独自に確立したin vivo遺伝子導入法を用い、細胞骨格結合蛋白が刻印付けとどのように関わるのかを解析し、記憶形成の分子基盤を解明する。平成24年度は「in vivo発現抑圧による記憶形成への関与を解析」 を主に行った。細胞骨格を制御する MAP2 が刻印付けに必要な遺伝子であるかどうかを解析するために、独自に確立した in vivo遺伝子導入系を用い、MAP2に対するmiRNA 発現ベクターをエレクトロポレーションにより導入し、発現を局所的に抑圧した。遺伝子抑圧を行う脳領域として、刻印付けに伴いMAP2遺伝子発現の上昇が明らかとなっているIMM領域に注目した。遺伝子導入を行った領域では、定量PCRと免疫染色により効率的にMAP2のmRNAとタンパクの発現が抑圧されていることが分かった。そして、刻印付けにどのような影響があらわれるかを解析した。その結果、MAP2の遺伝子抑圧をIMM領域で行ったヒナでは、刻印付けの成立が阻害されていた。このことは、MAP2遺伝子が刻印付けに重要な機能を果たしていることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、孵化直後のニワトリヒナに見られる刷り込みを記憶のモデルとし、記憶学習における神経回路改編の分子メカニズムを明らかにする。これまでに、cDNAマイクロアレイ解析により、細胞骨格を制御する細胞骨格結合蛋白MAP2の遺伝子発現が、刷り込みに伴い上昇することを見出している。この知見に基づき、独自に確立したin vivo遺伝子導入法を用い、MAP2が刷り込みとどのように関わるのかを解析し、記憶形成の分子基盤を解明する。平成24年度は、おもに、in vivo発現抑圧によるMAP2遺伝子の記憶形成への関与を解析した。そのために、独自に確立した in vivo遺伝子導入系を用い、MAP2に対するmiRNA 発現ベクターをエレクトロポレーションにより導入し、発現を局所的に抑圧した。遺伝子抑圧を行う脳領域として、刷り込みに伴いMAP2遺伝子発現の上昇が明らかとなっているIMM領域に注目した。遺伝子導入を行った領域では、定量PCRと免疫染色により効率的にMAP2のmRNAとタンパクの発現が抑圧されていることが分かった。そして、刷り込みにどのような影響があらわれるかを解析した。その結果、MAP2の遺伝子抑圧をIMM領域で行ったヒナでは、刻印付けの成立が阻害されていた。このことは、MAP2遺伝子が刷り込みに重要な機能を果たしていることを示している。当初立てた、in vivo 遺伝子抑圧系を用いたMAP2遺伝子の記憶形成への関与を示すことが達成されたので、おおむね順調に実験計画が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
MAP1B, MAP2 の薬理学的、細胞化学的解析を行う。MAP1B, MAP2 による細胞骨格の制御は、遺伝子発現の量的変化のみならず、リン酸化の変化によっても、なされる。MAP2 はリン酸化により細胞骨格の主要な構成蛋白 beta-tubulin から離れ、beta-tubulin の脱重合を促進する。代表者は、MAP2 のリン酸化が刻印付けの過程で亢進されることを見出した。このことは、刻印付けに伴い、リン酸化された MAP2 が細胞骨格のダイナミクスを制御し、神経細胞の樹状突起などの構造変化に影響をおよぼしていることを示唆している。そこで、MAP2 のリン酸化を阻害すると刻印付けの記憶形成過程に影響があるかどうか、MAP2 のリン酸化酵素阻害剤(リチウムクロライドなど)をニワトリヒナに静脈注射、若しくは、大脳に直接注入し、記憶形成への影響を解析する。さらに、リン酸化阻害剤を注入した大脳やMAP1B, MAP2 が遺伝子抑圧された大脳の神経細胞で、細胞骨格蛋白 beta-tubulinの局在に影響があるかどうか免疫染色により検討する。細胞骨格はシナプス形成に必須な NMDA 受容体や AMPA 受容体など様々な白を軸索輸送によって運ぶ足場となっていることが神経培養細胞を使った実験から明らかとされていることから、軸索輸送にも影響が見られる可能性が考えらる。MAP1B, MAP2 が遺伝子抑圧された神経細胞で、NMDA受容体やAMPA受容体などのシナプス上での局在に影響が見られるかどうかを観察する。これらの実験によりMAP1B, MAP2の刻印付けにおける機能に迫っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費に重点を置いて使用する計画である。消耗品費の中でも、遺伝子工学試薬などの薬品と、ニワトリ受精卵などの実験動物、培養細胞の購入が特に必要であるので経費を多くした。消耗品費の中には、インジェクションに必要なキャピラリ、オリゴヌクレオチド合成、必要なベクター等の購入が含まれる。試薬等の薬品が相対的に多く必要なので、90万円とした。また論文別刷代と英文校正代は、例年通りほぼ相当する金額を使用する予定である。
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