研究課題/領域番号 |
24590096
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山口 真二 帝京大学, 薬学部, 准教授 (60398740)
|
キーワード | 生化学 / 行動生化学 / 分子生物学 / 記憶 / 刻印付け |
研究概要 |
本研究の目的は、鳥類ヒナに見られる「刻印付け(刷り込み)」を記憶のモデルとして利用し、記憶学習における神経回路改編の分子メカニズムを明らかにすることである。代表者は、cDNAマイクロアレイ解析により刻印付けに関連する遺伝子の同定を試みた。その結 果、細胞骨格を制御する細胞骨格結合蛋白の遺伝子発現が、刻印付けに伴い上昇することを見出した。この知見に基づき、細胞骨格結合蛋白が刻印付けとどのように関わるのかを解析し、記憶形成の分子基盤を解明する。平成25年度はMAP1B, MAP2 の薬理学的、細胞化学的解析を行った。MAP1B, MAP2 による細胞骨格の制御は、遺伝子発現の量的変化のみならず、リン酸化の変化によってもなされる。MAP2 はリン酸化により細胞骨格の主要な構成蛋白 beta-tubulin から離れ、beta-tubulin の脱重合を促進する。代表者は、MAP2 のリン酸化が刻印付けの過程で亢進されることを見出した。このことは、刻印付けに伴い、リン酸化された MAP2 が細胞骨格のダイナミクスを制御し、神経細胞の樹状突起などの構造変化に影響をおよぼしていることを示唆している。そこで、MAP2 のリン酸化を阻害すると刻印付けの記憶形成過程に影響があるかどうか、MAP2 のリン酸化酵素阻害剤(リチウムクロライドなど)をニワトリヒナに静脈注射、若しくは、大脳に直接注入し、記憶形成への影響を解析した。その結果、MAP2のリン酸化が阻害され、刻印付けの記憶形成が阻害された。刷り込みの過程で、MAP2が細胞骨格のダイナミクスを制御している可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、孵化直後のニワトリヒナに見られる刷り込みを記憶のモデルとし、記憶学習における神経回路改編の分子メカニズムを明らかにする。これまでに、cDNAマイクロアレイ解析により、細胞骨格を制御する細胞骨格結合蛋白MAP2の遺伝子発現が、刷り込みに伴 い上昇することを見出している。この知見に基づき、MAP2が刷り込みとどのように関わるのかを解析し、記憶形成の分子基盤を解明する。平成24年度は、独自に確立したin vivo遺伝子導入法を用い、「in vivo発現抑圧による記憶形成への関与を解析」を主に行った。その結果、MAP2の遺伝子抑圧をIMM領域で行ったヒナでは、刻印付けの成立が阻害されていた。このことは、MAP2遺伝子が刻印付けに重要な機能を果たしていることを示している。さらに、平成25年度はMAP1B, MAP2 の薬理学的、細胞化学的解析を行った。代表者は、MAP2 のリン酸化が刻印付けの過程で亢進されることを見出した。このことは、刻印付けに伴い、リン酸化された MAP2 が細胞骨格のダイナミクスを制御し、神経細胞の樹状突起などの構造変化に影響をおよぼしていることを示唆している。そこで、MAP2 のリン酸化を阻害すると刻印付けの記憶形成過程に影響があるかどうか、MAP2 のリン酸化酵素阻害剤(リチウムクロライドなど)をニワトリヒナに静脈注射、若しくは、大脳に直接注入し、記憶形成への影響を解析した。その結果、MAP2のリン酸化が阻害され、刻印付けの記憶形成が阻害された。 このように、当初立てた、in vivo 遺伝子抑圧系を用いたMAP2遺伝子の記憶形成への解析と、薬理学的、細胞化学的解析が達成されたので、おおむね順調に実験計画が進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
代表者らは、2光子励起レーザ走査型顕微鏡を用い、生かしたままのヒナ大脳神経細胞において、棘突起、樹状突起を可視化することに成功している。まず、刻印付けによって棘突起、樹状突起の量的変動と形態変化がどの程度おこるかを統計的に解析する。そして、細胞骨格を制御するMAP1B, MAP2の発現上昇が、刻印付けに伴った神経回路の改編 (棘突起の形態変化)に関連するかどうかを解析する。つまり、遺伝子抑圧を行ったヒナ大脳の神経細胞をin vivoで経時的に観察し、棘突起の形態変化に及ぼす影響を定量的に評価する。この解析により、MAP1B, MAP2が、記憶形成に伴った神経回路改編に関わるかどうかが明らかとなる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、当初の予定ほど遺伝子工学などの消耗品費に使用されず、その分平成26年度の2光子励起レーザー走査型顕微鏡を用いた解析に用いる試料作製に使用される予定である。特に、神経細胞を可視化するために高タイターのウイルスを培養細胞を用いて作成するため、遺伝子工学試薬、大量に細胞を培養するのに必要な消耗品に経費を多くした。 消耗品費に重点を置いて使用する計画である。消耗品費の中でも、遺伝子工学試薬などの薬品と、ニワトリ受精卵などの実験動物、培養細胞の購入が特に必要であるので経費を多くした。消耗品費の中には、インジェクションに必要なキャピラリ、オリゴヌクレオチド 合成、必要なベクター等の購入が含まれる。試薬等の薬品が相対的に多くした。また論文別刷代と英文校正代は、例年通りほぼ相当する金額を使用する予定である。
|